一人旅に行った時、おかしな村に長く滞在した。
どことなく不思議な雰囲気の村で、その雰囲気が気に入った私は、気のすむまでその村で過ごそうと思ったのである。
その村には雪が降っていた。
そんなところも私は気に入ったのかもしれない。
村を散歩していると、毎日雪だるまを作っているおうち……というより何かの工場のような場所がった。
そこに立っていた風変わりな方に「雪だるま、お好きなんですか」と問うと、意外な答えが返ってきた。
「これは屋根にそういう細工をしているので、屋根から雪が落ちるときに自動的に雪だるまが作られるのです」と。
その方が続けた。
「こんな発明しても、なんの意味もないですがね」
私は言った。
「素敵ですわ。一つ、私の家にもお願いできないかしら」
「えぇ?」
その方は大層驚いていた。
私は生まれた時から雪の多い地域に住んでいる。
夫と結婚してからも、この地に居を構えた。
私は自分の家の軒先を見ながら、ここに雪だるまがあれば子供たちが見てくれるかも、と考えた。
夫に先立たれ、寂しい日々を送っている私にとって、家の前を行き交う子供たちの笑顔だけが癒しだった。
私から子供たちに話しかけることはしない。
知らない人から話しかけられても、きっと怖がるだけだろう。
ある朝、外からキャッキャと子供たちの笑い声が聞こえてきた。
見ると、子供たちが私の家の前で笑い転げている。
どうしたのか、と見てみると、屋根から落ちた雪でできた雪だるまが逆さにできていた。
小さな雪玉の上に大きな雪玉が乗っているのである。
「あら、逆さだぁ!」
驚いて思わずそう言うと、子供が一層声を上げて笑った。
私も一緒になって笑った。
あれから、子供たちとすごく仲良くなったわけではないけど、目が合うと「こんにちは」と言ってくれるようになった。
それだけで私の胸はじんわりと温かくなる。嬉しい。
私は、あの屋根を取り付けてくれた風変わりな方にお礼の手紙を出すことにした。
紙を置いて、ペンを持つ。
「拝啓 コヤギ博士さま……」
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