私がまだ小学校に通っていた頃、金曜日に先生が「月曜日に転校生が来る」と言った。
どんな子が来るのだろう、と私はワクワクした。
翌日の土曜日、私は近所にある山の中で遊んでいた。
と、木々の生い茂った少し奥まった場所に、蝶がたくさん集まっていた。
蝶はちょうど私の体と同じくらいの量が集まっていた。
「あっ」
私は思わず声をあげた。
集まった蝶の間に、人の姿が見えたのだ。
私が声を上げた瞬間、蝶たちは、ふっ、と散り散りになった。
すると中から少女が現れた。
それが小夜ちゃんだった。
小夜ちゃんは眠っているようだった。
私が小夜ちゃんのことを見つめていると、小夜ちゃんが目を開けてゆっくりとした動作でこちらを見た。
そして見ず知らずの私に微笑みかけて言ったのだ。
「ごめんなさい、驚かせてしまったでしょう」
それから小夜ちゃんは、自分の名前を言ってから、自分の家系について話した。
小夜ちゃんの家は代々蝶を大事にしている家で、その家の人間は生まれた頃から蝶に好かれるらしい。
こうして黙っているだけで蝶が集まってくるのだ。
「お父さんの仕事の関係で最近引っ越してきてね、山で遊んでいたら眠ってしまったみたい」
そうやわらかな表情を作る小夜ちゃんと私はすぐに仲良くなった。
小夜子というその子のことを私は小夜ちゃんと呼び、小夜ちゃんは私のことを佳代ちゃんと呼んだ。
名前の響きが似ていることが私は嬉しかった。
転校生はやっぱり小夜ちゃんだった。
学校を卒業して働きに出てからも私と小夜ちゃんは年賀状や季節のお便りなどを送り合った。
お互いが結婚などの人生の節目を迎えた時は必ず会って二人で話をした。
小夜ちゃんはいつでも私の一番の友達だった。
小夜ちゃんもそのように思ってくれていたように思う。
ある日、ふと小夜ちゃんはどうしているだろうな、なんて思った時、電話が鳴った。
小夜ちゃんの息子の昇太さんからの連絡だった。
小夜ちゃんの生家は私の家からは遠かった。
私はすぐに支度をして小夜ちゃんの生家に向かった。
電車とバスを乗り継ぎ、小夜ちゃんの生まれ育った家までやってきた。
蝶のたくさん舞う庭のある、不思議な場所だった。
私は小夜ちゃんの葬儀に参列した。
まだ私たちが小さい頃小夜ちゃんに教えてもらった蝶の折り紙を棺に入れた。
焼き場には行かずに、私は昇太さんに挨拶をして家を出た。
庭にまた蝶が集まっていた。
それは人の形をしているように見えた。
「小夜ちゃん」
私は思わずそう語りかけた。
ふっ、と蝶の群れが散った。
そのうち一頭の蝶がひらひらとこちらにやってきた。
蝶は私の肩にとまって羽を休めた。
私はやってきた時と同じようにバスに乗り込んだ。
小夜ちゃんの生家が遠ざかっていく。
駅についてバスを降りると、いつの間にかあの蝶はいなくなっていた。
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