隠し粉

ショートショート作品
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 一人の女性が料理教室に参加していた。

 女性の付き合っている彼氏が料理上手で、いつも女性に美味しいものを作ってくれるので、自分も料理がうまくなって彼に手料理を振る舞いたい、と考えたのである。

 自分だけで料理をしているとよく分量を間違えてしまったりするので、ちゃんと料理を習い直そうと考えた女性は、料理教室で「隠し粉」の存在を知った。

 隠し粉に混ぜて隠し味を入れると、味が遅れてやってくるという代物だ。

 遅れてくる時間は隠し粉の分量で決まる。

 小さじ一杯で三十分、大さじ一杯で三時間といった具合である。

 料理教室から帰ってきた女性はさっそく彼に料理を振る舞うことにした。

 まずは失敗が少ないシチューを作ることにした女性は、彼へのいたずらで彼のシチューにだけ隠し粉に混ぜた辛味を入れてみることにした。

 小さじ一杯の隠し粉に唐辛子を混ぜる。

 しかしシチューを食べた彼は三十分経っても平然としていた。

 女性は、はてな、と思っていたが、夜中に「あぁああぁ」という彼の叫び声で目が覚めた。

 どうやら女性は小さじ一杯ではなく、大さじ一杯の隠し粉を使ってしまったらしい。

 さらには唐辛子の量も間違え、とんでもない量の唐辛子を入れていたのだ。

 さらにその日の明け方、今度は彼の方が女性の「あぁあぁあ」という叫び声で目を覚ました。

 女性は間違えて自分用のシチューにも隠し粉に混ぜた唐辛子を入れており、そちらの隠し粉は大さじ三杯、つまり九時間後に隠し味がするようになっていたのである。

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