しばらく手入れをしていなかった庭の草でもむしろうと外に出た私は妙な草を見つけた。
それは庭の隅に生えていた。
見たこともない草でそのツルの形が妙だった。
草から伸びたツルが四角い枠を作っている。
そしてその枠の中に絵を描くようにツルが伸びていた。
「ん〜……?」
そのツルで出来た絵は小さな男の子が走っている絵だった。
ツルで出来た枠の中にツルの絵。
それは、そう。ちょうど四コマ漫画の一コマのように見えた。
「なんなの……これ」
私はその気味の悪い植物をむしってしまおうかどうか悩み、結局やめておいた。
なんだかむしったら祟りでも起きそうな気がしたからである。
しかしその植物は次の日意外な変化をした。
枯れたわけではない。
ツルの枠はそのままに、中の絵だけが変わっていた。
なんと昨日走っていた少年が宇宙人にさらわれている。
意外すぎる展開に私は驚いた。
そして困ったことに、続きが気になった。
この少年はこれからどうなるのだろう。
やはりこの絵は四コマだったのだ。
次のコマはどんな展開になるのだろう。
私はツルを抜かずに次の日を待った。
翌朝、起きてからすぐにツルを確認しにいくと、またツルの中の絵が変わっていた。
なんと、昨日少年を連れ去った宇宙人の親玉らしき人物が、少年に向かって「私がお母さんよ」と告白している。
「えぇー!?」
またしても意外な展開を迎えたツルの四コマに私は夢中になった。
これはもしかして四コマじゃなくてストーリー漫画なのか?
いや、このテンポはやっぱり四コマ漫画な気がする。
だとすれば明日、オチが分かるはずだ。
しかし、なんと次の日にツルは枯れてしまったのだ。
もはや枠線すらなく、ただの枯れた茶色いツルに成り果てている。
「一体どんなオチだったのよ!?」
私はモヤモヤした気持ちのまま、近所に住む植物博士のところに枯れたツルを持っていった。
「やぁ、これは珍しい。お庭に生えたんですか」
私が持っていったツルを見て、植物博士が驚きの声をあげた。
「はい。毎日ツルの絵が変わっていったんです」
「ふむふむ」
「だけど……肝心のオチがなくて。そのまま枯れてしまったんです」
「ははぁ……。するとこれは”オチナシ”かもしれませんね」
「オチナシ!?」
「はい。それらしい絵を見せて人間を弄ぶ草です。オチナシとは別に”オチアリ”という植物もあって、それはオチがあるのですが……」
博士が困ったように笑った。
私はがっかりして家に帰った。
数日後、私は弟に電話をかけてこのツルのことを話した。
弟は珍しいものやおかしな物が好きで、今では探偵なんかをやっている変わり者だ。
「ふぅん」
弟はそう言ってから少し考え込むような間を開けて「なるほどね」と笑った。
「確証はないけど、それは”オチアリ”だったのかもしれないね」
「え、なんで!? オチなかったよ?」
「簡単な推理さ。姉さんが見た少年が走っている一コマ目。それは一コマ目じゃなかったのかもしれない。姉さんは一コマ目を見逃したんだ。姉さんが草刈りをしようと思った前の日に一コマ目があったとしたら。例えば”おまえは実はうちの子じゃないんだよ”なんて少年が言われて、家を飛び出している絵だったらどうだい。姉さんが三コマ目だと思っていたコマがオチになるだろう」
なるほど……。
私は弟の頭の良さに舌を巻いた。
だが同時に、それが真実だったとしても、どちらにしても面白くないオチだな、と思ったのだった。
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