生物雷光

ショートショート作品
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 生まれて初めて「生物雷光」を見たのは、僕がまだ小さい頃だ。

 雨雲の中を馬のような形をした光が走ったのだ。

 そしてその光の馬が駆け抜けた後、大きな音がして雷が落ちた。

 初めてその馬型の雷を見た後、僕は生物雷光には馬以外にも色々な種類があることを知った。

 例えばネズミ。

 ネズミ型の生物雷光は小型の雷光だが数が多く、各地に小さな雷が次々に落ちる。

 魚の形をした生物雷光もある。

 魚群のように局所的に大量の雷が落ちるのが特徴だ。

 世界にはライオン型の生物雷光などもある。

 ライオンはどの生物雷光よりも力強く大きな雷が落ちるのだ。

 さらに驚くべきことに、生物雷光には人間型のものもある。

 雨雲の中に巨大な人間型の光が現れ、その光の巨人が拳をふりあげると雷が落ちる。

 まるでギリシア神話のゼウスであり、その姿は雷神そのものだ。

 
 僕は初めて馬の生物雷光を見た時から生物雷光の虜になり、将来は生物雷光の研究をしたいと願うようになった。

 空ばかり見つめている僕を母さんはよく叱った。

 親父はどうしていたのか覚えていないが、少なくとも怒られた記憶はない。

 そんな家庭で育った僕は、大学を出てから生物雷光を研究する学者になった。

 学者になった僕は幻の生物雷光を求めて世界中を旅した。

 幻の生物雷光はその名を”狼雷(ろうこう)”といい、狼の形をした雷光だった。

 しかしそれはあくまで噂であり、狼雷は未だ公式な観測がなされていない。

 僕は今、ある国の雪山に登っていた。

 この山で狼雷を見たという噂を耳にしたのだ。

 頂上近くの山小屋に何日も泊まり込んでいるのだが、狼雷は未だその姿を見せていない。

 やはり噂に過ぎなかったのか……。

 物資が尽き、下山を考えなければならなくなった頃、山の頂上にある切っ先に一匹の狼が座っているのを見た。

 あれは……まさか、絶滅したはずのニホンオオカミ……?

「ウオーーーン」

 狼はそう遠吠えすると、切っ先のその先、なにもないはずの場所を歩き始めた。

 空中を歩いた狼はやがて空に浮かぶ雲の中に吸い込まれていった。

 するとその瞬間、狼型の雷光が雲の中を走り、雷が落ちた。

 最初は一匹だけだった狼型の雷光がやがて群れになり、大量の雷が降り注いだ。

 僕はその様子をビデオカメラに納めながら、生物雷光の神秘に魅せられていた。

 まさか、生物が実際に雷に成り代わっていたなんて。

 それは世紀の発見だったが、僕が撮影した映像を学会に提出してもなかなか信じてはもらえなかった。

 トリック映像だろうという意見が大半を占めたのだ。

 それは無理からぬことかもしれない。

 実際にその目で見たはずの僕がいまだに信じられないのだから。

 しかしやがて僕の発見はたくさんの学者による裏付け検証の結果、真実であると認められ、僕の名前は世界的に有名になった。

 生物雷光にまつわる新しい発見ができて僕は嬉しかったが、この頃よく考えることがある。

 それは、あの馬の生物雷光を見た時くらいの幼い頃の記憶についてだ。

 生物雷光の一つ、人型の雷光が雲に現れる時、親父はいつもどこにいただろうか。

 僕の記憶の中では、人型の雷光の時だけ親父の姿が見えなかった気がするのだ。

 まさか、あのダジャレ好きな、なんでもない親父が雷光になっているのだろうか。

 僕はそう考えるのだが、未だ親父には真実を聞けないでいる。

 もし親父が人型の雷光を担っているとしたら。

 そしてそれが世襲によって受け継がれていくものだとしたら。

 それは怖いような、ドキドキするような未来である。

 とりあえず現時点で間違いないのは、もし親父が本当に人型の雷光で、僕に引退を告げる時が来たら言うであろうセリフだ。

 きっと親父はこう言うだろう。

「俺は……電撃引退する」

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