クラスメイトの友香から「一緒にスイーツ店に行って欲しい」とお願いされた。
友香とは挨拶くらいはするけれど、そこまで仲が良かったわけではないので驚いた。
「私? いいけど……」
「お願い! どうしても、あなたじゃないと」
友香はそんなよく分からないことを言って私の手を引いた。
スイーツ店に向かう道すがら、友香は私に説明をした。
「その店のメニューは恥ずかしがり屋でね、開いたらすぐいなくなっちゃうの」
「へ? どういう意味?」
「メニューがすぐに見えなくなるのよ。メニューを開いた瞬間、パッと消えちゃうの。それでね、そのメニューをなんとか覚えて、正確に注文をしないとスイーツを作ってもらえないの」
「それ、なんだかひどくない? 文句言ってやれば」
「う〜ん、でもね、そのお店のパティシエはね、雇われの人らしいの。だから文句を言っても意味がないみたいだし、お客さんが正確に注文をできて初めて、そのパティシエにもレシピが開示されるんだって」
「なんだそりゃ」
私はそんな返事をしながら、友香が私を誘った理由が分かった。
私はバトミントン部で、全国大会にも行った。
動体視力には自信があるのである。
お店に着くと、雇われパティシエが「お嬢ちゃん、また来たの」と友香に笑いかけた。
「へへ、リベンジですよ、リベンジ」
私は友香に「前にも来たの?」と聞いた。
てっきり初めて来たのだと思っていたからだ。
「うん。でも、その時はメニューが見えなくて、えらいものを食べさせられた」
「えらいものって……」
その時、パティシエがメニューを持ってきた。
二人の間に緊張が走る。
「いい? 値段まで正確に言わないと駄目なの。本当に一瞬だから。いい!?」
そう言う友香に私は頷いた。
「よし、じゃあ、行くよ!」
二人同時にメニューを開く。
あれ、普通のメニューじゃん……と思ったら、文字が紙の上を高速に横滑りして、やがて全て消えてしまった。
「み、見えた!?」
友香が興奮気味に聞く。
「うーん、何個か……」
私が見えたのは、以下の二つである。
・栗がくりくりモンブラン 600円(税抜き)
・いちごがどっさりベリーストロベリーないちごパフエ 980円(税込)
なんだがダジャレっぽいメニューである。
「やったぁ、すごいすごい!」
友香が喜びながら私の言ったメニューを注文をした。
パティシエが「やるねぇ」と言いながらスイーツを作り出す。
やがて運ばれてきたモンブランとパフェはどちらも美味しかった。
私はそれを友香とシェアし合いながら楽しんだ。
友香は話が上手で、私はもっと早く友香と友達になればよかったな、と思った。
お会計の時、パティシエに「オーナーの方ってどんな方なんですか」と聞いた。
こんなよく分からないお店を出す人に興味があったのだ。
「うーん、私もよく知らないんだけど、いたずらとダジャレ好きのおじさんだよ」
友香と二人、「なんだか納得だね」と言い合いながら店を出た。
帰り道、私は友香に気になっていたことを聞いてみた。
「そう言えば、前に来た時”メニューが見えなくてえらいものを食べた”って言ってたけど、何を食べたの?」
「あぁ。あのお店ね、なぜか注文をミスすると、麻婆豆腐とか酢の物とかまったく甘くない物が出てくるの。それも微妙に美味しいから腹立つけどね」
「なんだそりゃ!?」
「ね。謎」
私たちは二人で笑いあった。
笑いながら私は、あのお店のオーナーは本当にダジャレ好きなのだと思った。
つまり、メニューを見ることができなければ”辛酸を嘗めることになる”という意味だろう。
まぁどちらにせよ、私にとって自分が食べたい物を食べられないお店は、辛口レビューになってしまうけれど。
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