ささやき鍋

ショートショート作品
スポンサーリンク

 鍋好きな私は、いつも美味しい鍋を求めて情報収集をしている。

 変わった鍋の噂を聞いた。

 さっそく予約しようとしたのだが、どうやら一人では予約できないらしい。

 最低三人からでないと予約できないそうだ。

 私は友人を誘って店を予約し、行ってみた。

 古風な日本家屋を思わせる店に到着すると、個室に案内された。

 すでに鍋の用意は済んでいるらしい。

 鍋や食材がテーブルに並んでいた。

 店員さんがやってきて「それでは作らせていただきます」と言った。

 店員さんはマスクをつけて、何やら鍋にぼそぼそと語りかけている。

「何をしているんです?」

 私が聞くと店員さんは「美味しくしてくださいとお願いしたんです」と答えた。

 噂通りだ。

 このお店では鍋に「美味しくなれ」と語りかけるらしいのだ。

 鍋が出来上がると、店員さんは「ごゆっくり」と言い置いて個室を出ていった。

 さっそく友人と共に鍋を食べてみる。

 ん、うまい!

 私は友人と一緒に美味しい美味しいと言い合いながら鍋を平らげた。

 これまで食べてきたどんな鍋よりも美味しい鍋に感動しつつ、お会計のために店員さんを呼ぶ。

 やってきた店員さんに私は聞いた。

「このお店、なんで三人以上でないと予約できないんですか?」

「この鍋は美味しいと褒められるともっと美味しくなるんです。ですから美味しい美味しいと言い合っていただくよう、複数人でのご来店をお願いしているんです」

 なるほど。

 じゃあ今度はもっと大人数で来よう。

 それも声の大きいやつを見繕おう、なんて考えながら私は友人と共に店を後にした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました