温度ペン

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 コヤギ博士に呼び出され、私は博士の研究所に向かった。

 やってきた私に博士は言った。

「まぁ、コーヒーでも。ホットとアイス、どちらがいいかね?」

「じゃあホットで」

 私がそう言うと、博士がコーヒーを淹れてくれた。

 カップを持って口をつけると……冷たい。

 困惑している私を見て、博士が「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべた。

 それから一本のペンを取り出し、その先をアルコールティッシュで消毒した。

 そして博士は何を思ったか、ペンを私のコーヒーの中に入れた。

 と、冷たかったコーヒーから湯気が上がり始めた。

「もう一度飲んでみなさい」

 博士にそう言われて私がコーヒーを飲むと、今度は熱々のコーヒーになっていた。

「これはね、水の温度を変えることのできるペンなんだよ。例えば、風呂なんかに水を溜めて、このペンで40度と書けばたちまち風呂が沸く、というわけだ。ちなみに先ほどコーヒーに使ったペンは新品だから安心したまえ」

「へぇ……すごい発明ですね」

「そうだろう、そうだろう。冷たい飲み物が飲みたくなったら言ってくれ。私はこれをしかるべきところに送らねばならん」

 博士はそう言うといそいそと作業を始めた。

「しかるべきところ、というと?」

「宇宙開発をしている人たちの所だよ。宇宙空間だときっと温度を保つのが大変だろうからね。ええと、宛先は……」

 博士は宅配便の送り状を取り出し、宛先を書き始めた。

「……町、1200番地の……」

 その瞬間、送り状がばぁっと燃え上がった。

 どうやらコヤギ博士はあの温度ペンで送り状を書いてしまったらしい。

 博士は「水以外にも反応するのか!」と驚いている。

「いや、紙の中に含まれる水分が熱エネルギーで……」

 そんな風に考察している博士を見て、私は思わず笑ってしまった。

「なんだね?」

 不思議そうにこちらを見る博士の毛が、チリチリになっている。

 これではコヤギ博士というより子羊博士だなぁと思いながら、私はコーヒーを飲んだ。

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