また蘇る魔王

ショートショート作品
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 長い眠りから覚めた魔王は、迷っていた。

 現世に蘇るかどうかを。

 魔王は封印の棺の中でいつまでも迷っていた。

 魔王の悲願は世界征服である。

 しかしその実行がためらわれる。

 なぜか。

 それは自分の持つ能力が陳腐化してしまったからである。

 魔王の持つ能力は五つ。

 何もないところで火を起こし、花を枯らせる、電気を周りに発生させる、物を浮き上げる、遠くにいる人間に語りかける。

 これらの能力で、在りし日の人々は十分に魔王を畏怖した。

 人々が増大させる魔王の恐怖が神通力となり、魔王は人々を支配した。

 しかし魔王は気づいていた。

 この能力、現世ではとても人々を畏怖させる効力などないと。

 驚くには驚くだろうが、何かのトリックだ、と決めつけられてしまう可能性が高い。

 だからして魔王は思い悩んでいたのだ。

 現世に蘇るべきかどうかを。

 それから数年後。

 ある一人の男が世界を席巻していた。

 その男は人々からこう呼ばれていた。

「奇術師サタン」

 魔王は己の力がすでに人々を支配するに及ばないと判断し、奇術師として名乗りをあげた。

 その結果、一躍時の人に。

 何しろ魔王の手品には種がない。

 起こせる現象は単純だが、それが”本物”であれば不思議を呼ぶ。

 魔王は世界中にその存在を認知されることとなった。

 とはいえ、そのようなブームはあっという間に過ぎ去るものである。

「奇術師サタン」こと魔王は自身の力が飽きられたと分かると、再び長い眠りについた。

「五百年も眠れば、人々は私の存在を忘れ、再び私の力を認めるであろう」

 魔王は再び封印されし者となった。今度は自らの手で。

 五百年後、魔王は目を覚ました。

 地上に降り立った魔王は様変わりしている地球の姿を見て驚いた。

 森がない。

 海が変色している。

 動物の数が極端に減り、人間たちの家も見当たらなかった。

 魔王は人間を探し回り、ついにその姿を見つけた。

 人間は洞穴に住んでいた。

 まるで原始時代のような暮らしをしている人間たち。

 人間たちは皆、霞がかったような顔をしていた。 

 うつろで、覇気のかけらも感じられない。

「一体どうしたというのだ!?」

 魔王はまだ話のできる人間に話を聞いた。

 するとこの地球の惨状は人間たちの過ちによって引き起こされたものだと判明した。

 魔王は、うつろで愚鈍な生物に成り果てた人間たちを叱責した。

「生き物と自然を奪ってしまったなら、自分たちでそれを取り戻そうとは思わんのか!!!」

 それから魔王は己の能力を使い、人間たちを扇動し、地球を元の地球に戻すべく尽力した。

 魔王が起こした火は人間に活力を取り戻させ、花を枯れさせる力は花や木などの植物を急速に成長させた。

 魔王は自らが発生させた電気で動かなくなった機械を動かし土地を掘削させ、物を浮き上げる能力でどれだけ重い物も必要な場所に運んだ。

 そして、地球を現在の姿に至らしめた戦火により分断された人々を自らのテレパス能力を使って再び手を取り合わせた。

 こうした魔王の活躍により、地球は、徐々にであるが元の姿に戻りつつあった。

 人間の目に活力が戻り、自らの過ちを償うべく命を燃やし始めたのを見て、魔王は再び眠りについた。

 また五百年後に魔王は目覚める。

 奇術師として再び名を馳せる為に。

 魔王は「世界征服」という当初の目的を完全に忘れたのだった。

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