演奏クリーニング店

ショートショート作品
スポンサーリンク

 近所のクリーニング店でアルバイトを始めた。

 初めての出勤日、先輩の女性が言った。

「服を受け取ったら、こうやって音楽をかけるの」

「え?」

 あっけにとられている私をよそに、女性はクリーニング店にあるミニコンポを操作した。

 軽快な音楽が流れ始める。

 女性が言った。

「ほら。こんな感じで音楽にのって汚れが踊り出すの」

 見ると、確かに服についたシミが音楽に合わせて動き、浮き出ている。

 女性が得意げに言う。

「あとは水で洗い流すだけってわけよ」

「へぇ〜! すごいですね」

 それから私は女性に教わった通り、服を音楽にかけ続けた。

 音楽にのって面白いくらい汚れが落ちていく。だが、中には落ちないものもあった。

 女性に相談すると、女性は「あら、これは頑固ねぇ」なんて言って嬉しそうに笑った。

「あなた、ラッキーよ」

「え?」

「ちょっと出かけるわよ」

 女性についていくと、コンサートホールのような場所に着いた。

 なんでも、頑固な汚れは音楽の生演奏を聴かせるそうなのだ。

 まもなくクラシック音楽のコンサートが行われ、私と女性はその演奏に聞き惚れた。

 コンサート会場からの帰り、女性が言った。

「ね、すごいでしょ?」

「えぇ、素敵な演奏でしたし、汚れもすっかり取れましたね」

「そうなの。でもね」

 女性がこちらに顔を寄せて、いたずらっぽく言った。

「効果はそれだけじゃないのよ」

「え?」

 女性は自分の顔を指差して言った。

「生演奏は、お肌のシミも落としてくれるの」

コメント

タイトルとURLをコピーしました