ある地方に出張に行った時のこと。
その日は太陽がこれでもかと照りつける上に風もない日で、俺は汗を大量にかきながら道を歩いていた。
と、ある林の側を通ると、すごくいい風が吹いてきて、俺の汗を乾かしてくれた。
見ると、林におかしな花が咲いていた。
その花は扇風機のようにくるくると花弁が回っていた。
そしてそのおかげで心地よい風がこちらに吹いてくるのである。
風はないのに、この花はどうして回っているのだろう?
不思議に思って林を見つめている俺に、道を通りかかったおじさんが声をかけてくれた。
「海風草が珍しいのかい」
「海風草?」
「この辺にはよく生えている草だよ。根がすごく遠くまで伸びて、その根から海風を取り込んで花をくるくる回すのさ。そうやって花粉を遠くに飛ばすんよ」
「へぇ……根から海風を取り込むって、どうやってるんですか?」
「見に行ってみるか?」
おじさんはそう言って俺を海岸まで案内してくれた。
「このあたりに……ほら、あった」
おじさんは砂浜の砂をかき分けて、その場所を俺に指し示した。
そこに植物の根のようなものが生えていた。
根にはいくつも穴が開いていて、おじさんによるとこの穴から風を取り込んでいるらしい。
それを見て俺はピンと来るものがあった。
「海風草って、かなり遠くまで根を伸ばせるんですかね?」
「うん。水辺に向かって根を伸ばす習性があるみたいだなぁ。この国は島国だからね、水を探していればいずれ海に出るってことだろう」
「なるほど……。あの、この花の種か苗を売っているところご存知ないですか?」
俺は手に入れた海風草をさっそく庭に植えた。
昨日花が咲いたので、まもなく風が吹き始めるはずである。
この海風草で一儲けできるのではないか、と俺は考えていた。
海風草の風は完全に自然のものなので、海風草を植えるだけで、言うなればエコなクーラーになるというわけだ。
俺はワクワクしながら風が吹くのを待った。
「き、来た!」
海風草の花がくるくると回り始めた。
「やった、涼し……ぐえっ!?」
俺は思わず鼻をつまんだ。
なんだ、このニオイは?
鼻をつくような異臭。
そして……風が、熱い!?
海風草から吹いてくる風は涼しい風などではなく、もはやそれは熱風だった。
俺はその場から逃げるように家の中に入ってから、ようやく何が起きたのかを理解した。
海風草は水に向かって伸びる性質がある。
だが俺の植えた海風草は水辺は水辺でも温泉に根が伸びたらしい。
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