僕は夜、こっそり家を抜け出した。
夜の町はとても静かで、いつも通っている道が全然違う道に見える。
怖くはなかった。
と、町のはずれにある公園でおじさんが望遠鏡を覗いていた。
おじさんは僕に気づいて望遠鏡から目を離し、話しかけて来た。
「こんな時間に何をしているんだい?」
「おじさんこそ、何をやっているの?」
「おじさんは星のお医者さんだから、お仕事さ」
「星のお医者さん?」
「うん。坊やなら見えるかなぁ」
そう言っておじさんは僕に望遠鏡を覗かせてくれた。
望遠鏡には一つの星が映っていて、その星は弱々しく点滅していた。
「その星は怪我をしているんだ」
「星も怪我をするの?」
「そうさ」
おじさんが僕と場所を代わり、望遠鏡を覗き込みながら何やら手を動かした。
「ほら、治ったよ」
おじさんに言われて僕が再び望遠鏡を覗くと、望遠鏡の中の星が元気を取り戻したように輝いている。
「すごいね!」
僕がそう言うとおじさんは満足そうにうなずいた。
「でも星のお医者さんなんて聞いたことないよ」
「星の怪我に気づける人は少ないからね。大人になるとね、見えなくなるんだよ」
「へぇ……」
それから僕はおじさんとお別れをして家に帰った。
朝、目を覚ました僕はお母さんに昨日の出来事を話した。
僕は重大な秘密を打ち明けるつもりでお母さんに話したのだけれど、お母さんは僕の話を信じなかった。
そのくせ夜中にこっそり抜け出したことだけは信じて、僕を叱るのだった。
あれ以来、おじさんには一度も会っていない。
あの幼い日の思い出から月日は流れ、僕も大人になった。
大人になった今、あのおじさんが本当にいたのかどうか、自分でも分からなくなった。
もしかしてあれは僕の見た夢なのかもしれない。
あんなおじさんなんてどこにも存在しなかったのかな。
「パパ! こっちきて!」
息子に呼ばれてリビングに行くと、家族みんながテレビに見入っていた。
何をそんなに真剣に見ているのだろうと僕もテレビを見ると、あるニュースが流れていた。
キャスターが興奮した様子で話をしている。
「えぇ、こちらは人類が初めて到着した惑星の映像です。この星に生物の痕跡はありません。にも関わらず、この惑星には絆創膏のようなものが貼られているのです!」
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