天使の花畑

ショートショート作品
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 引っ越したマンションから見える景色の中に、素敵な花畑があった。

 いくつかのお家を隔てた先にある花畑はとても綺麗で、私はよくマンションの窓からその花畑を眺めた。

 もっと近くで花畑を見てみたいと思ってその花畑まで歩くと、なんとそこはただの更地だった。

 花など一輪も生えていない。

 おかしいな、場所を間違えたかなと思いマンションに戻ると、マンションからはちゃんと見えるのである。

 まるで蜃気楼みたいだ、と私は思った。

 私はマンションの窓から折りに触れその花畑を眺めていたのだが、しばらくするとその花畑のある場所に家が建ってしまった。

 せっかくの花畑が……と私は落胆したが、仕方がない。何しろあの場所はただの更地なのだから。

 せめてその場所に住む人が花を好きな人だといいなと思いながら私がその家の側を通りかかると、住民らしき女性が庭に花を植えていた。

 あぁ、よかったと思いながら通り過ぎようとしたら、女性と目があった。

 慌てて会釈をした私に、女性が話しかけてくる。

「あの、よろしければお茶でもいかがですか」

「えっ」

「引っ越してきたばかりで知り合いがいないので、寂しくて。お時間があれば」

「あ、じゃあ……」

 女性に促されて玄関から中に入ろうとした時、女性が私の耳元で小さく言った。

「いつもお花を見てくださっていた方ですよね。お会いできて光栄です」

 そう言って微笑した彼女は、まるで天使のようだった。

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