ルーティンアイス

ショートショート作品
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 娘の詩織は実家暮らしをしながら都内の会社に通っていた。

 朝、母親が怒りながら詩織を起こしに来る。

 詩織は朝が苦手で、いつも会社に遅刻しそうになるのだ。

 詩織は、無意識に起きたり歯を磨いたり、ご飯を食べたりできるようになりたい、と考えた。

 結果、詩織は「ルーティンアイス」を使ってみることにした。

 送られてきたキットからマイクロチップを取り出し、そのマイクロチップを舐めながら覚え込ませたいルーティンを行う。

 そしてチップを核にして氷を作る。

 すると、その氷を溶かすだけで、無意識下でルーティンを行えるようになるのだ。

 詩織は母親にお願いして、それをやるべき時間になったらルーティンアイスを溶かしてもらうことにした。

 例えば、起きるべき時間になったら、起きて着替えをするルーティンアイスを溶かしてもらう、といった具合である。

 ルーティンアイスを導入した結果、詩織は遅刻をしなくなった。

 しかしある日、事件が起こった。

 その日の昼、自宅で冷凍パスタを食べようとした母親が、手元を誤り、ルーティンアイスをすべて床にぶちまけてしまった。

 アイスはみるみるうちに溶けて、取引先に来ていた詩織は、取引先が出してくれた水で歯磨きを始め、顔を洗ってしまったのである。

 取引先の会議室に、詩織の叫び声がこだました。

 帰ってきた詩織は、母親に猛抗議した。

 最初は謝っていた母親も次第に腹が立ってきて、最終的には「じゃあ自分でやりなさいよ!」と大声で怒鳴り、二人は冷戦状態に陥った。

 二人の凍った空気は、溶けるまでまだ時間がかかりそうである。

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