嘘つき水晶

ショートショート作品
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 僕はある都会の町で占い師をしている。

 この町は嫌いではない。

 だけど、僕は最近、自分はここにいるべきじゃないと思うことがあるのだ。

 僕は昔から水晶の中に未来を見ることができた。

 何も意識せずとも、水晶の中に占いたい未来が見える。

 だから僕は当然のように占い師になった。

 しかし最近、妙なことが起きるようになったのだ。

 水晶の中の映像をハッキングされるのである。

 僕が占いたいと思っていない、悪い未来の映像が見えてしまうのだ。

 しかもそれはデタラメな嘘の未来なのである。

 水晶の映像をハッキングするなんて、魔女くらいにしかできないはずだ。

 僕は魔女に狙われているのだろうか?

 水晶の映像がおかしくなってから、僕は占いをしに来た人に嘘を言ってしまうようになった。

 見えてしまった悪い映像ではなく、適当な良い未来を話して聞かせる。

 その結果、僕の占いは「当たらない」と評判になってしまい、僕は廃業せざるを得なくなった。

 占い師をやめた僕は、田舎に引っ込んだ。

 そこで僕は農業をやりつつ、たまに趣味で占いをした。

 ここに来てからは水晶の映像が乱れることはなく、僕は前のように占いができるようになった。

 田舎での暮らしはすべてがゆっくりしていて、僕はここでの生活が気に入っていたのである。

 そんな僕の所に、ある女の子が訪ねてきた。

 女の子は僕に会うなり、「ごめんなさい!」と謝った。

 訳を聞いてみると、どうやら彼女は魔女の見習いだったらしく、からかうつもりで僕の水晶をハッキングしたらしい。

 その結果、僕が占い師をやめることになってしまったので、ずっと責任を感じていたそうだ。

 僕は彼女に言った。

「あの水晶のように悪い嘘を見せられるなら、良い嘘も見せられるはず。良い嘘をついてみたら」

 すると彼女は僕の住んでいる村にいついて、村人に良い嘘をついて回った。

 しかしいくら良くても嘘は嘘なので、彼女は狼少女と呼ばれるように。

 責任を感じた僕は彼女と一緒に暮らすようになった。

 そうしてみて初めて、あぁ、僕のいるべきところはここだったんだなと感じることができた。

 昔、水晶の中に未来が見えることに気がついた僕が最初に見たのは当然自分の未来だった。

 そこに映っていたのは、ここで彼女とこうして暮らしている風景だったのだ。

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