丘の上に住むコヤギ博士から呼び出しを受けた。
博士は研究所にある畑で私を待ち構えていた。
コヤギ博士は私を見るなりいった。
「これを引っこ抜いてみたまえ!」
カブと大根の中間くらいの作物が畑に埋まっている。
私が畑の土からその植物を引っこ抜くと、その植物に空いた口からオーケストラのクラシックが聞こえてきた。
「これは音符草というものだ。引き抜くと叫び声を上げるマンドラダケを改良して、音楽を鳴らすようにしたものさ。ほら、君にも一株分けてあげよう」
私はコヤギ博士から音符草を一株もらい、家に帰った。
妻が庭で家庭菜園をしているので、そこを間借りして音符草を埋めた。
翌日。
コヤギ博士から呼び出しを受けた。
私が急いで研究所に行ってみると、博士はいった。
「えらいことになったよ」
「どうしたんですか?」
「これを引き抜いてみたまえ」
そこには昨日と同じような音符草が生えていた。
私が音符草を引き抜くと、その音符草はものすごいデスボイスを発した。
「な、なんですかこれ!?」
「昨日の音符草は芳醇な土壌で育ったから余裕のある曲を奏でたようだ。土の栄養素が枯渇した場所に植えたら、この音符草のように飢えた獣のような歌を歌うようになったんだよ。君も気をつけたまえ」
私は家への帰り道、庭に植えた音符草を早く引き抜いてしまわないと、と思った。
妻が育てている野菜に栄養を取られ、あの音符草もデスボイスを発するような気がしたのだ。
家に戻り、音符草を引き抜くと、ほっそりとした音符草が抜けた。
そしてその音符草は悲痛な声で歌い始めた。
それは恋人との別れの歌で、その相手はミニトマトだった。
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