ショートショート作品

ポケットストーブ

 あれはまだ私が大学生の頃。  同じゼミの高田くんのダウンジャケットが温かそうだなと思って、私は思わずそのポケットに手を突っ込んだ。 「わ、何すんの石井さん!」  高田くんはそう言ってびっくりしていたけど、私もびっくりした。 ...
ショートショート作品

おじさんの夜景

お父さんとお母さんに誕生日のお祝いをしてもらって私が寝室に戻ると、窓がコンコンと鳴った。 私が窓を開けると、その先に光生(みつお)おじさんが立っていた。 「おじさん!」 私がそう言うと、おじさんは「よぉ、元気にしてたか」と言って背中に...
ショートショート作品

キーテープ

鍵屋兼発明家という妙な職業の友人から「キーテープ」なる発明品をもらった。 なんでもこのテープは貼るだけで鍵の役割を果たすらしい。 例えば金庫。 金庫にテープを貼り付けると、その金庫はテープを剥がさない限り決して開かなくなる。 そのテ...
ショートショート作品

風鈴ハザード

ある島国で「風鈴を贈り合う」という文化が突然流行った。 何が発端かは分からない。有名な芸能人が始めたのか、はたまた企業の戦略か。 発端は分からないが、それは同時多発的であった。そして爆発的でもあった。 人々はこぞって風鈴を買い求め、贈...
ショートショート作品

グルメ作家の苦悩

元は小説家志望だった。 しかし自分には物語を作る才能がなかった。 小説家の夢を諦めた私は、面白半分に自身のブログに「グルメノベル」を書き始めた。 「グルメノベル」とは私が考えた造語で、文章でいかに料理の旨さを写実的に現せるかという実験...
ショートショート作品

キードクター

私は鍵の医者「キードクター」と呼ばれている。 キーのドクターと言っても、鍵を直すのではない。 鍵"で"人間を治すのだ。 人間のバラバラになってしまった心、思い出、意志などを鍵を差し込んで治療する。 そもそも鍵でどうして扉が開くのかを...
ショートショート作品

眠気買い取ります

「眠気買い取ります」 最初そんな募集を見た時は完全に怪しいなと思った。 眠気を買い取るなんて、そんなバカなことがあるはずがない。 と言いつつも、大学のサークル旅行資金としてどうしてもお金が欲しかった僕はその怪しい募集に応募したのだった...
ショートショート作品

ある料理店の秘密

グルメリポーターをやっている友人から「食事に行かないか」と誘われた。 昔からうまいものが好きでついにそれを仕事にしてしまったような奴だから、さぞうまい店に連れて行ってくれるに違いない。 俺は胸を躍らせながら友人との待ち合わせ場所に向かっ...
ショートショート作品

色の目の使い方

(あの人……何かあるな) 僕は前を歩くサラリーマンを見てそう思った。 スーツはありふれたブラックのスーツだが、身につけたネクタイやバックがよくない"色"に見えた。 おそらく彼はこれから何らかの事故にあう。 それが軽微なものかそうでは...
ショートショート作品

おばあちゃんの庭鏡

「おばあちゃん」 私は縁側に座っているおばあちゃんに声をかけた。 おばあちゃんはいつもこの縁側の座布団にちょこんと座っている。 そして、縁側に置いてある大きな鏡を通して、庭を見ているのだ。 「あら、みきちゃん」 「帰ってきたよ」 ...
タイトルとURLをコピーしました