ある奏者が話題になっている。
「感涙の奏者」と呼ばれている彼の演奏を聞くと、必ず泣いてしまうらしい。
彼が吹く楽器は、なんとリコーダーなのだとか。
興味を持った私はチケットをなんとか取ってコンサートに行ってみることにした。
演奏を聴くと、私の目から涙が溢れてきた。
なんでだろう。そんなにすごい演奏だとは思わなかったのに……。
それからしばらくの後、ある一定の時期から奏者の人気が急落した。
演奏を聴いても泣けなくなったというのである。
人気が急落した時期は、みんなが感染症対策でマスクをするようになった時期と一致していた。
しばらくして分かったことだが、彼の吹くリコーダーからは玉ねぎを切る時などに出る「硫化アリル」という物質に似たものが出ていたらしい。
玉ねぎを切った時に泣く要領でみんな泣いていたのだが、マスクをしたことで鼻から泣かせる物質が入らなくなって泣けなくなったのだとか。
それから感涙の奏者の噂はまったく聞かなくなった。
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