ss【おじさんの夜景】

ショートショート作品

 

お父さんとお母さんに誕生日のお祝いをしてもらって私が寝室に戻ると、窓がコンコンと鳴った。

 

私が窓を開けると、その先に光生(みつお)おじさんが立っていた。

 

「おじさん!」

 

私がそう言うと、おじさんは「よぉ、元気にしてたか」と言って背中に背負っている大きなバックパックを下ろした。

 

「今度はどこに行ってきたの?」

 

私の質問におじさんは「ん〜秘密」と答える。おじさんの口癖だ。

 

おじさんはバックパックの中から大きなペットボトルをたくさん取り出した。

 

そして「まずは一本目」と言ってペットボトルの水を庭に撒き始めた。

 

すると、おじさんが撒いた水で出来た水面に、ぼんやりとオレンジ色の光が灯った。

 

「わぁ……綺麗。これはどこなの?」

 

私がそう聞くと、おじさんは「ノルウェーのオスロという場所だよ」と教えてくれた。

 

おじさんはいつも世界を旅している。

 

そして私の誕生日になると日本に帰ってきて、「水の夜景」を見せてくれるのだ。

 

おじさんは世界の夜景を見るのが好きで、その夜景を見た場所の水を汲んでくる。

 

おじさんが汲んできた水を庭に撒くと、その水が反射した夜景を映し出すのだ。

 

「どうやっているの? そのペットボトルに秘密があるの?」

 

と私が聞いてもおじさんは「ん〜秘密」と言って教えてくれない。

 

おじさんは、病弱であまり外に出ることができない私に、毎年こうして水の夜景を見せてくれるのだ。

 

「いつか本物を見てみたいな」

 

と私が言うと「いつでも連れてってやるぞ」とおじさんが笑う。

 

オスロの夜景に見惚れていると、おじさんが「さて次だ」と言って新しいペットボトルの水を庭に撒き始めた。

 

「あ、これ分かる! モナコのエルキュール港でしょ」

 

私がそう言うとおじさんは「正解」と言って頭を撫でてくれた。

 

ここは世界でも有数の夜景スポットで、前におじさんに見せてもらったことがあったのだ。

 

おじさんはそれからいくつもの水の夜景を見せてくれた。

 

最後の夜景が終わると、おじさんは「よいしょ」と言ってバックパックを背負った。

 

「あがっていけばいいのに」

 

と私が言うと「ねーさんに引き止められると長いからな」とおじさんが笑う。

 

おじさんはお母さんのことをいつも「ねーさん」と呼ぶ。

 

「今度はどこに行くの?」

 

そう聞いても、おじさんから帰ってくる返事はやはり「ん〜秘密」だ。

 

「おじさん、ありがとう」

 

そうお礼を言った私の頭を撫でながら、おじさんは「早くおじさんと夜景を見に行こうな」と言って帰って行った。

 

その日、私はとても綺麗な夢を見た。誕生日の夜、おじさんの夜景を見た後はいつも綺麗な夢を見るのだ。

 

 

 

翌朝、お母さんの「あ〜〜〜!」という声で目を覚ました。

 

「また光生が来てたでしょ!」

 

びしょびしょの庭を見て、お母さんが私に尋ねる。

 

「ん〜秘密」

 

おじさんの口癖を真似て私が答えると、お母さんは「まったくもう。寄ってきゃいいのに」とふくれた。

 

外はもう朝日が昇っていて、おじさんの撒いた水の粒が太陽の光を反射して美しく輝いていた。

 

(了)

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