愚鈍うどん

ショートショート作品
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 俺は学校を卒業してから働かずにずっと実家の二階でゴロゴロしていた。

 しかしある時「何かやってみようかな」と急に思い至った。

 何かとは何か。

 うどん作りである。

 適当にしていたネットサーフィンでうどん作りの記事を見つけたのだ。

 俺は一念発起して台所を占拠し、うどん作りを開始した。

 しかし元来根性がないので、うどんを足で踏む「足踏み」の工程で疲れてしまった。

 なんだか急激にうどん作りが面倒くさくなって、足で踏むのをやめて布団の下にビニール袋に入れた生地を寝かせてそのままその上で寝てしまった。

 そして恐ろしいことにその存在を三日間忘れてしまったのである。

 もうダメだ、と思いながら恐る恐る布団の下の生地を見てみる。

 色はぎりぎり大丈夫そうである。

 俺はダメ元でその生地をうどんにしてみた。

 麺を切りそろえ、茹でてから食べてみる。

「う……うまい!」

 俺の作ったうどんは、腰がまったくなかったがそれでも美味しかった。

 いわゆる「やわうどん」というジャンルに入るうどんで、独特な食感がくせになる。

 調子に乗った俺はその自分で作ったうどんを業者に卸してみることにした。

 するとそれが大評判になり、ついに俺は居抜き物件で自分の店を開くことになったのである。

「癖になる」

「安心する味」

 そんな評判が次々に客を呼び、俺の店は繁盛店になった。

 しかし……オープンから一ヶ月ほどした頃、客の感想に変化が訪れた。

「なんかまずい」

「腰が出てきちゃってる」

 そんな風に言われて客足が段々と遠のいていった。

 うどんに腰が出てきた……。

 俺の店のうどんはすべて俺が打っていたのだが、どうやら無意識に腰のあるうどんを作ってしまっていたらしい。

 それは他ならぬ俺が愚鈍な人間でなくなってしまったからだろう。

 その頃には店の経営などもがっつりと俺がこなしていたのだ。

 それから俺は店を別の人間に任せることにして、うどん打ちに専念した。

 そして今日も俺は昼過ぎに目を覚ました。

 寝すぎて頭が痛い。

 愚鈍でいるのも楽ではないものだ。

 俺はあくびをしながら尻を掻き、また布団に寝転んで二度寝をしたのだった。

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