暇を持て余した大学生、植田は公園のベンチに座りながら無為な時間を過ごしていた。
と、ボケッと座っている植田に一人の老人が声をかけた。
「あの」
声をかけられた植田はかったるそうに「はい?」と答えた。
「アルバイトをやってみませんか」
「バイト?」
「はい。観察日記をつけるアルバイトです」
「観察日記ぃ? 何の」
「私のです」
「は?」
「私の様子を観察して、それを日記にしてください。やってくださるなら一日一万円お渡ししますよ」
「は、一万円?」
「はい。ただ私の一日の行動を見ていただき、日記をつけていただくだけでいいのです」
植田はそんな老人からの不思議な依頼を受けることにした。
植田は一日中老人の様子を観察した。
老人は日がな公園で日向ぼっこしたり、たまに図書館に行ったりと悠々自適な生活をしていた。
植田はそんな老人の一日を日記に書くだけで本当にお金がもらえるのかと不安になったが、老人はきちんとお金を渡してくれた。
しばらくそんなバイトを続けた植田は、これは絶対何かある、と考えるようになる。
まさか老人は自分に殺人の罪か何かを着せようと思っているのではないか?
それともまさか、自殺をするつもりで、遺書代わりに日記を書かせているのか。
そう考えた植田は老人に言った。
「なぁじーさん。辞めたほうがいいぜ」
「何がです?」
「だから……」
植田が考えていることを言うと、老人はわはは、と笑った。
植田はそれでも何かあるに違いないと思いつつ、わりの良いアルバイトを続けたが、アルバイトは何事もなく終わった。
「じーさん、なんでこんなことを頼んだんだよ?」
「趣味なんですよ。他人に自分がどう見えているのか。それを知りたいのです」
老人はそう言って去っていった。
植田は、なんだか不思議なアルバイトだったと首をかしげながら、それでもお金がもらえたからいいか、と元の生活に戻っていった。
自宅に戻った老人は、植田から受け取った日記をめくりながらほくそ笑んだ。
「そうか、私はこんな風に見えているのか。順調だな」
そうつぶやいた老人の皮膚が、バリバリと音を立てて破れ、中から見知らぬ生物が顔を出した。
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