私には後輩がいない。
新卒で入ったこの会社は社員数が三十人ほどの会社なのだが、私が入った後は新入社員が一人も入ってきていないのだ。
「五年ですよ、五年!」
私は飲み会の席で社長にそう愚痴を言った。
この会社のいいところは社長にでも気兼ねなく意見や愚痴を言えるところである。
「私も後輩が欲しいです〜」
半ば冗談で言う私に社長は「はいはい」と適当な返事を返した。
しかし後日、なんと社長が私の後輩を連れてきた。
こういう何気ないことを覚えていられるのが社長が社長たる所以のような気がする。
「三ヶ月だけだけどね」
と社長は言っていた。
なんとその子は「マンスリー後輩」といういわゆる人材派遣のような形でやってきたらしい。
私より三歳年下だというその女の子は「花宮と申します。林先輩、色々と教えて下さい」と言ってぺこりと頭を下げた。
私は念願の後輩ができて舞い上がり、張り切り、花宮さんに懇切丁寧に仕事を教えた。
花宮さんは要領は良いのだが物覚えがちょっと悪いところもあって、その度に「林先輩、教えて下さい」と頼ってくるのが可愛らしかった。
花宮さんに頼られる度に私は「仕方ないなぁ、花宮さんは」なんて言って張り切るのだ。
花宮さんが来てから私は仕事に行くのが楽しみで仕方なくなった。
後輩が一人できただけでこんなに毎日が変わるなんて。
しかしそんな幸せな日々はあっという間に過ぎて、花宮さんが来て三ヶ月が経ってしまった。
花宮さんの送別会で、私は一人号泣してしまった。
それを見て花宮さんももらい泣きしてしまい、そんな私たちを見て社長以下先輩社員たちは困ったような笑顔で私たちを慰めた。
それから私は元通りまた会社で働き始めたのだが、ある年に一念発起して転職をした。
私はずっと後輩が欲しかった。
だから後輩が欲しい人の気持ちが手にとるように分かる。
そんな私にしかできない仕事がある気がしたのだ。
「ほら、林さん行くわよ」
転職先の会社でそう言われた私は「はい、先輩!」と返事をして花宮さんの後を追いかけた。
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