森の生態系について研究している私はいち早くその変化に気がついた。
森にはたくさんの動物が生息しているのだが、その動物たちの冬眠の痕跡が見当たらないのだ。
動物は冬眠しなければ冬を越せないはずである。
私はその原因を探る調査を始めた。
そしてその結果、ある”木”の存在を発見した。
その木は冬前になるとパカリとその幹が割れて、なんとその中に動物を受け入れる。
動物を受け入れた後、木の幹は元の形に戻る。
木の中は温度が一定に保たれる。
動物は木の中で冬眠をして、春に木の中から出てくるのだろう。
私はその木の存在を知って、危機感を覚えた。
木による冬眠に適応したら、その動物は冬眠の仕方を忘れてしまうのではないか?
万一この木が絶滅したら、一気に他の動物たちにも影響が出る可能性がある。
しかし結論を出すのはまだ早い。
もっと研究を重ねなければ。
ある年の冬、私は動物を受け入れている木の幹を切ってみることにした。
冬眠から起こしてしまった動物は研究所で保護するつもりである。
私は持ってきた手斧で木の幹を切り裂いた。
「……! なんだ、これは……」
私は切り開かれた木の中身を見て思わず絶句した。
中からは動物ではなく、どろりとした液体のようなものが出てきたのだ。
これではまるで昆虫の蛹ではないか……。
私は切り開かれた木を前に戦慄した。
昆虫は成虫として生まれ変わる為に蛹になる。
ではこの木の中に入った動物も冬を越した後は別の生物になっているのでは……?
私はもっと研究を重ねる為に、次の年、森に住む野うさぎにイヤータグをつけた。
その野うさぎが木の中で冬眠した結果を観察しようと考えたのだ。
私は日夜野うさぎの観察を続けた。
ある日、野うさぎは普段の生活圏を出て森の奥深くに進んだ。
いよいよ冬眠の準備をするのだろう。
私はうさぎを追いかけて森の中に入った。
野うさぎはしばらく森の木々の間を移動し続け、そしてある一つの木の割れている幹の中に入った。
よし、これで来年の春にイヤータグをつけているうさぎを見つければまた一つ研究が進むぞ。
私は野うさぎの入った木が幹を完全に閉じるのを待ってからその場を後にした。
が、思った以上に時間が経っていたらしく、帰り道の途中で夜になってしまった。
真っ暗になった森を進むのは危険だと判断した私はその場で野宿をすることにした。
山火事にならないよう慎重に焚き火を焚いた後、手頃な木に腰掛けた私は想像以上に体が疲れていることに気が付き、その場で気を失うようにして眠ってしまった。
目を覚ますとすでに森に光が降り注いでいた。
野宿なのに随分ぐっすりと眠った気がする。
足元を見ると、昨日まで積もっていたはずの雪がない。
その代わりに春の植物が芽吹いていた。
と、私の足の間を、イヤータグをつけた野うさぎが跳ねていった。
その野うさぎを目で追いながら、私は焦燥感にかられていた。
私は何かをしようとしていた気がする。
しかしそれが何か、まったく思い出せないのだ。
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