朝起きて庭を見に行くと、キャベツのような植物の中に電子レンジができていた。
これは「プリントプラント」と呼ばれるものである。
端末から注文をすればすぐに物体を生成してくれる。
一昔前の技術で言うところの3Dプリンターのようなものだ。
プリントプラントは、注文が入ると土に含有されている様々な成分からその物体をプリントする。
昔、インターネットで世界は大きく変わったが、この、土に様々な成分を含有させる「ソイルネット」によっても世界は大きく変わった。
欲しい物はいつでもどこでもなんでも生成できるようになったのである。
今住んでいるこの家だってそうだ。
我が家は大家族だから大きな家が必要なのである。
出来上がった電子レンジを家の中に運ぼうと、持ち上げる。
が……蓋がなかった。
プリントに失敗したんだ。
きっとまた、土の中の鉄分が足りなかったのだろう。
僕はプロバイダに連絡して「鉄分が足りなかったよ!」とクレームを入れた。
プロバイダの担当者は「申し訳ありません。すぐに補充しますので」と慌てた様子で答えた。
仕方がないので今日はとりあえず旧式の物を使うことにした。
翌朝。
昨夜のうちに注文しておいた電子レンジの様子を見に庭に出た。
すると、一つのプリントプラントの中に白子のようなものができていた。
おぉ、白子だ。
白子は僕の大好物である。
……ん?
これは!?
僕は端末に走って急いでキャンセルしようとしたのだが、間に合わなかった。
「母さん!」
急いで妻を呼ぶ。
「まったく、また注文間違いしたな?」
僕はそう言って庭を指差した。
その頃にはもう、白子が小さな女の子になっていた。
あれは白子ではなく脳みそだったのだ。
妻は女の子を見て「あらまぁ」と声を上げた。
「私、いんげんを頼んだつもりだったのに……」
「だから、いんげんやら人参やらを頼む時は僕にダブルチェックを頼むように言ったじゃないか」
僕はため息をつきながら庭に降りた。
裸のまま立っている女の子に声をかける。
「おまえ、どうする? 分解されにいくか?」
プリントプラントから出来上がったものは、しかるべき場所に運べばすぐに分解処理をしてくれる。
女の子は首をふるふると横に振った。
「だよなぁ……。じゃあ、とりあえずあがりな」
女の子を家の中にあげて服を着せてやる。
これでまた家族が増えてしまった。
いよいよこの家の大きさでは小さすぎる。
大きな家をプリントしないと。
だが、そのためには役所に申請しないとダメだ。
家などの巨大なものを作る場合、ソイルネット内の成分を大量消費するので、事前に申請が必要なのである。
面倒くさいなぁ。まぁでも仕方ない。
僕は、これで11人家族となった家族と一緒に「いただきまーす」と手を合わせて朝食を食べた。
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