私が店を経営している場所はいわゆるシャッター街の一角で、私の店も経営が厳しい。
いよいよとなったら店を閉めるしかない、と考えていた頃、閉店時に閉めるシャッターにスプレーで絵を描かれてしまった。
グラフィティアートというやつだ。
近所に住む若者の仕業だろう。
私は怒りながら白いペンキでグラフィティを消した。
次の日、また違うものを描かれてしまった。
私が消すと、また描かれる。
私はいよいよ我慢の限界を迎え、監視カメラをセットした。
証拠を押さえて警察に通報してやる。
翌日、店に行くとまた新しいグラフィティが描かれていたので、私はさっそく監視カメラをチェックした。
すると驚くべきことに、シャッターに描かれたグラフィティが、ひとりでに書き換わっていったのである。
どうなってるんだ、これは……。
しかもそのグラフィティは、昨日のものよりも上手になっている。
これならそのままにしておいても良いくらいではないか……と思ったが、町の景観を損なうわけにはいかない。
私はまた白いペンキでグラフィティを消した。
次の日も、また次の日も一人でにグラフィティが現れ、私はその度にそれをペンキで消した。
隅々まできちんと白いペンキで塗るのは骨の折れる作業だった。
するとシャッターは、どうやら描かれたものをペンキで消す方が難しいと考えたのか、今度は自分で描いたグラフィティを自分で消すようになった。
まるで自動で字が消えるホワイトボードのようである。
おかしなシャッターだなと思ったが、手間がかからなくなったのは喜ばしいことだ。
ある日、店に忘れ物をした私が夜中に店に戻ると、シャッターの前に若者が立っていた。
手にはスプレーを持っている。
こら! と言いかけて、私はふと思いついた。
そうか。
私に気づいて逃げようとする若者を呼び止める。
「自由に描いていいよ。一回500円な」
描かれたグラフィティはシャッターが自動で消してくれる。
気兼ねなくグラフィティの練習ができるシャッターは人気を集め、わりと儲かっているのであった。
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