僕の町には「旋回マント」がいた。
町の上をぐるぐるとマントが飛んでいたのである。
何のマントなのかは分からない。
日夜、マントはぐるぐると町を旋回し、人助けをしていた。
荷物が重くて困っている人がいたら荷物を運んであげたり、雨の日に傘を持たずに歩いている子供の上を覆ってあげたり。
僕はそんな旋回マントが大好きだった。
昔、学校で落ち込むことがあってとぼとぼと歩いていた時、旋回マントに空を飛ばせてもらったことがある。
見たことのない視点で見る世界。
あの光景は、今でも忘れていない。
しかし僕の育った町は、人口減少のあおりを受けてダムに沈むことになった。
実家にいる母さんの話では、マントはしばらくダムの上を旋回していたが、いつの間にかいなくなったらしい。
どうか、どこかでゆっくり羽を休めてくれていることを願う。
何しろ、マントはずっと飛びっぱなしだったのだから。
そんなことを一人部屋で考えていると、ラジオからこんなニュースが流れてきた。
「信じられない事が起こりました。道路で倒れている高齢者をマントが助けたのです。マントは、その高齢者を包むと、ひらりと飛び上がり……」
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