ある男がある施設を訪れた。
その施設では犬の調教が行われている。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」と言われるが、ここでは犬に夫婦喧嘩を食べさせる訓練を行っている。
夫婦喧嘩が始まると、口をモゴモゴさせて犬が喧嘩を食べてくれる。
するとすぐに喧嘩が収まるというわけだ。
施設の係員が男を大きな部屋に案内した。
そこにはたくさんの犬がいて、餌を食べていた。
それだけならは特段不思議な光景ではないが、その部屋には大音量で夫婦喧嘩の音声が流されていた。
そしてスクリーンには、夫婦喧嘩の様子が映し出されている。
「このように、喧嘩中に餌を与えることによって、いつしか夫婦喧嘩を食べるようになる、というわけです」
係員はそう説明した。
男は質問した。
「夫婦喧嘩というものは、栄養はあるのですか？」
係員が答える。
「そのようですよ。喧嘩の食べ過ぎで太った、なんて犬もいると報告されています」
男はしばらくその様子を眺めていたが、やがて頷くとその部屋を後にした。
＊＊＊
「ちょっと！ 早くしてよ！」
男は犬を撫でていた手を止めた。
それからため息をついて立ち上がる。
男は妻と口論を始めた。
その様子を見て、犬は大きくあくびをし、頭を前足の上に下ろして、また気持ちのよさそうに居眠りを始めたのだった。
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