私には昔からおかしな能力があった。
それは雨を止める能力である。
私が傘をさすと、雨はすぐに止む。
この能力に気がついたのは、まだ幼稚園に通っていた頃だ。
「傘さすと雨止むよ!」
私が両親にそう言うと、両親は笑って信じなかった。
何度も雨を止めて見せたけれど、偶然だと言って信じてくれなくて、しまいにはしつこいと怒られた。
だからこの能力は私だけの秘密である。
もちろん、雨に打たれないこの能力のことは気に入っている。
だけど、私には密かにやってみたいことがあった。
それは雨の中の散歩である。
雨が降る中で歩く道は、きっといつもとは違う。
でも、私にはそれができない。
傘をささずに歩いたら、すごく目立ってしまう。
レインコートという手も考えたけど、それでもやっぱり目立つ。
雨の中を歩いてみたいなんて、そんなの贅沢かな。
そんなことを考えながら傘を開く。
「鈴野さん」
横にいる高嶋くんが傘をさしながら言った。
「よかったら……その」
彼はそう言って、私の方に傘を少しだけ傾けた。
どういう意味か分からず「え?」と間の抜けた声を出してしまった。
「だから……傘、こっち。どうかな?」
高嶋くんがまた傘を傾ける。
そういうことか!
私は急いで傘をしまい、それから「お邪魔します」と言って高嶋くんの傘の中に入った。
高嶋くんが傘を少しだけこちらに傾けてくれる。
また好きが増えてしまう。
「ねぇ、帰り、少し遠回りしていい?」
私の言葉に高嶋くんは「いいよ」と微笑む。
傘の中は、雨の音に紛れて静かで、私はその静かさの中を高嶋くんと一緒に歩いた。
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