ビルの清掃員をしている私は今日もあるビルの清掃にやってきた。
「おはようございまーす」
ただの清掃員である私にも気さくに挨拶をしてくれるこの会社の人たちが私は好きだった。
自然と丁寧に仕事をしようという気持ちになってくる。
私は手に持った掃除用具で念入りに掃除を始めた。
仕事を終えた私は一週間の楽しみである乗馬クラブにやってきた。
「ハヤテ〜!」
そう声をかけながらハヤテに駆け寄る。
ハヤテは毛並みの素敵な、目の優しい馬で、私の一番のお気に入りである。
この乗馬クラブでは実際に乗馬する前に馬の世話をする。
備え付けのブラシでハヤテをブラッシングしてやると、いつもは嫌がるのに今日はすごくリラックスしていた。
珍しいなと思っていると、飼育員さんが「それ、弛緩ブラシっていうんですよ」と教えてくれる。
「弛緩ブラシ?」
「えぇ。これでブラッシングしてあげると馬がリラックスする不思議なグッズなんです」
「へぇ〜いいですね」
私は気持ちよさそうにしているハヤテの顔を見ながらブラッシングを続けた。
翌日、私はいつも通りビル清掃の仕事に出かけた。
「おはようございまーす」
今日も気持ちの良い挨拶をしてもらいながら清掃をする。
と、突然建物全体が大きく揺れ始めた。地震か……!?
「山本さん、避難しましょう!」
会社の人に声をかけてもらって、私はみんなと一緒にビルから外に出た。
「山本さん、大丈夫でしたかぁ?」
事務をやっている女性が声をかけてくれる。
「えぇ、私は大丈夫です」
そう答えながらビルを見上げる。
まだ揺れ続けているようだ。
と、スマートフォンで何かを見ていた若い男性社員が言った。
「おかしいなぁ。地震速報出てないぞ」
「この辺だけなのかな?」
「う〜ん、それにしてももっと騒いでも良さそうだけど……」
「なんか揺れてるのビルだけじゃない?」
「ん?」
私はそこではっと気がついた。
確かに彼らの言う通り、ビルだけが揺れて地面はまったく揺れていない。
だとしたら……。
私は手に持った掃除用具を見て、思わず「あっ」と声をあげた。
昨日間違えて持ってきてしまったのだろう。
私の手には昨日ハヤテに使った弛緩ブラシが握られており、弛緩したらしいビルはまだくねくねと揺れていた。
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