ss風鈴ハザード

ショートショート作品

 

ある島国で「風鈴を贈り合う」という文化が突然流行った。

 

何が発端かは分からない。有名な芸能人が始めたのか、はたまた企業の戦略か。

 

発端は分からないが、それは同時多発的であった。そして爆発的でもあった。

 

人々はこぞって風鈴を買い求め、贈り合った。

 

しかし人々は気がついていなかった。

 

それらの風鈴は装飾や大きさなどはまちまちだが、その中身が同じものであることを。

 

いまこの国に流通している風鈴が元を辿れば全て同じ出所の物でその機能も同じであることを。

 

ベランダの洗濯物干しに、あるいは軒先に、様々な場所に取り付けられたそれは、人々の知らないところでまったく同じ音を鳴らした。

 

風鈴などそもそも風に音を鳴らすだけのものだから、その類似性に気づいた者が皆無だったのも無理はない。

 

とにかくその大量の風鈴は大量に飾られ、大量に同じ音を鳴らした。

 

そして人々の思考を、行動を、少しずつ蝕んでいった。

 

それは、そう、ちょうど催眠術のように。

 

最も早く影響を受けたのは風鈴の音をよく聞く人々、つまり日頃自宅にいることが多い主婦や在宅ワーカー、高齢者などであった。

 

彼ら彼女らはこぞって同じことに興味を持ったり、同じものを買い求めたりしたが、そのことに気がつく者もやはりいなかった。

 

ちょっとしたブームが起きつつあるぞ、というくらいのことに感づいた者はいるかもしれないが、そのおかしさに気付けるものはいなかった。それはその国の人類にとって唯一にして最大の失態と言えるだろう。

 

とにかく、風鈴によって行動を左右されていることなど露知らず、人々は同じ行動をするという”結果”を提示してしまった。

 

そして、夏が終わり、人々が風鈴を押入れなどにしまったことでこの恐ろしい現象(当人たちは気づいてすらいないが)は終わりを告げたかに思われた。

 

しかしその風鈴を人々に広く浸透させたその勢力は、夏の終わりまでに十分に実験や検討を終えていた。

 

だからして、夏の終わり、風鈴の封印のその数ヶ月後に、世界中から視認できるほどに巨大な風鈴似の飛行物体が現れたことは必然であった。

 

それは一見にして未確認飛行物体、つまるところUFOのような形をしていたが、その正体は人々が騒いだようなものではなかった。

 

その飛行物体が「リーン リーン」と大きな音を出して終わりを告げる。

 

小さな島国にて行われた恐ろしい実験に気がつくことのできなかったその時、人類の敗北は決定していたのであった。

 

(了)

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