序列の目薬

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 ある、おもしろ商品を買った。

 この目薬をさすと、人の”序列”が分かるらしい。

 例えば会社でいうと、社長や部長などの階級が、その人を見るだけで分かるというわけだ。

 実際に使ってみると、どうやら平社員にも序列があるらしいことを知った。

 おぉ、佐藤先輩よりも俺の方が上か……!

 そんなことを思っていると、その佐藤先輩が言った。

「おまえ、これから新しい取引先に行くんだろ。あそこの社長、ちょっと変わっているから、対応を間違えるなよ」

「はぁい」

 俺は生返事をしながら席を立った。

 まぁ俺の方が序列は上なんだし、まともに聞かなくてもいいか、なんて思ったのである。

 さて、そんなわけで新しい取引先にやってきた俺は、建物に入る前に一応目薬をさした。

 通された待合室で待っていると、やがて三人の男性がやってきた。

 若い男性、中年ぐらいの男性、そして老齢の男性。

 俺は彼らの序列を見てぎょっとした。

 一番若い人が社長だったのである。

 なるほど、そうなのか。

 まぁベンチャー企業ではよくあることである。

「社長、よろしくお願いします」

 俺は一番若い男性に名刺を差し出した。

 しかし彼は、一歩引きながら「あ、い、いえ僕は……」などと、まごついた。

「あぁ、社長は私です」

 老齢の男性が言う。

「あ、え!?」

 驚いている俺をよそに、老齢の男性が言った。

「あぁ、でもさっきまでは君が社長だったかな」

 そう言われた若い男性は頭を掻きながら笑った。

「ど、どういうことですか?」

 俺がそう尋ねると、若い男性は待合室の扉を開けてから言った。

「さっきまであれをやっていたんです」

 男性が指差した先を見ると、昔懐かしい、ルーレットで人生を決めるボードゲームが置いてあったのだった。

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