夢遊ゴミ捨て魔

ショートショート作品
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 最近なんだかおかしなことが起こり始めた。

 朝起きると部屋の物がなくなっているのだ。

 確かにそこに置いておいたのに、というものがなくなっている。

 どこに行ったんだろうと思いながら探すと、ゴミ箱の中に入っている。

 そんなことがここ数週間で頻発しているのだ。

 何がどうなっているのか。

 不思議なことにゴミ箱に捨てられているのは、後で捨てようと思っていた物、ゴミであることが多い。

 それだけなら、やぁ便利と呑気に構えることもできる。

 だが困るのは、たまに必要なものも捨てられることだ。

 それは「あとでしまおう」と思って置きっぱなしにしておいた本などである。

 それを”ゴミ”だと判断して捨てられるのだ。

 勝手にものを捨てられてるのは正直困るし、第一気味が悪い。

 なんとかしなくてはと思った僕はまずは寝る前にゴミ箱に封をしてしまうことにした。

 こうすれば捨てられないだろう。

 しかしそうしたら今度はゴミ捨て場にダイレクトに捨てられるようになってしまった。

 もう我慢の限界だ。一体誰がこんなことを?

 しかしそれを考えれば考えるほど犯人は一人に絞られる。

 僕だ。

 僕は一人暮らしだし、寝る前にはしっかり鍵を確認しているので、何者かが部屋に進入してきて……ということも考えにくい。

 だとしたら僕が自分でも気づかないうちに夜中に起き出してゴミを捨てているとしか考えられない。

 なんだか恐ろしくなった僕はとりあえずお医者さんに診てもらうことにした。

 僕の話を聞いたお医者さんは「う〜ん」と唸ってから言った。

「夢遊病の一種かもしれませんね」

「夢遊病……ですか」

「はい。色々と症状がありまして、”ものを捨てる”という行動は珍しいですがありえないことではありません。夢遊病はまれに成人の方でも発症しますから」

「はぁ……」

 お医者さんはそう言って、まずはストレスを減らすことが大切だと言った。

 夢遊病は特効薬が存在しないらしく、ストレスなどの心の疲れを取ることが重要らしい。

 どうしようもない気持ちで病院を後にした僕は、とりあえず寝る前に部屋の整理をすることにした。

 出しっぱなしにしておいたものなどはきちんと元の場所に戻す。

 そうすれば知らない間に僕自身に捨てられることもない。

 逆にそのあたりにポイとしておくと、会社から持って帰ってきた重要書類の入ったカバンでもなんでも捨ててしまうのだ。

 寝る前の整理を徹底してから、ゴミを勝手に捨てられる被害はほとんどなくなった。

 しかし、である。

 ストレスの他にどうやら僕には解決すべき問題があるらしい。

 最近僕は、目が覚めるとゴミ捨て場に立っていることが多いのである。

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