私は医者である。
外科医である私は今日も手術を行っている。
目の前に横たわっている人間を見ていると、ついよだれが出てきてしまい、マスクの中が濡れた。
このよだれは生理現象のようなものだ。
私の”狼男”としての側面がそうさせるのだろう。
私は夜になると狼になってしまう。
昼は普通の人間として生活できているのだが、それでも時折こうして狼の側面が仕事中に顔を出す。
まったく、厄介なものだ。
夜がやってきた。
誰もいない病院で、私は白衣を着たまま狼に変化した。
闇夜の中に狼である私の咆哮が響き渡る。
と、部屋の扉が小さくコンコンと叩かれた。
扉を開けると白ウサギが一匹そこにいた。
足を怪我して弱っているようだ。
思わずよだれが垂れる。
本当は今すぐにでも食べてやりたい。
しかし私は白ウサギの首を咥えると、施術台の上に運んだ。
弱っているウサギの足を治してやる。
”もう大丈夫だ”と伝える代わりにぺろりと顔を舐めてやると、ウサギは私に何度も頭を下げてから走り去っていった。
みすみすご馳走を逃してしまった私は、仕方なく人間用の肉を食べることにした。
本当はウサギの方がうまいのだが、狼である私に眠る人間の側面がそれを許さない。
まったく、厄介なものだ。
コメント