ポータブル相撲キット

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 今、日本では「ポータブル相撲キット」というARアプリが大人気である。

 ARとは拡張現実のことで、現実の風景に様々なものを映し出す技術であるが「ポータブル相撲キット」は実際にはそこにいない力士同士を戦わせることができるアプリだ。

 ちなみに日本では相撲が人気だが、他の国でも類似のアプリは存在する。

 国によってはフェンシングやテニス、卓球などが人気のようだ。

 私もポータブル相撲キットで「太の里」という力士を育てていた。

 だが太の里は今、失意の底にいる。

 先ほど町で一番強い力士に負けたところなのだ。

「気にするな、太の里! お前は絶対に強くなれる。めげるな!」

 私はそんな風に一生懸命太の里を励ました。

 太の里に自信を取り戻させる為、私は太の里と一緒に稽古に励んだ。

 稽古に稽古を重ね、取り組みを繰り返した。

 太の里は取り組みごとに確実に経験を積み、強くなっていった。

 そして……ついに町一番の力士を倒したのである!

「やったな、太の里! 次は県内一を狙うぞ! そしてその次は日本一だ!」

 私はそんな風に喜んだが、なぜか太の里は悲しそうな顔をしていた。

「どうした? どうした、太の里ーーー」

 道を歩いていた男は手にした端末を操作し、親方アプリをアンイストールした。

 途中まで親方アプリで自動的にレベルアップさせ、ある程度強くなってから自分でプレイしようと考えていたのである。

 アプリの削除を確認すると、男は鼻歌を歌いながら対戦相手を探し始めた。

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