ぴょこ足

ショートショート作品
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 めんどくさいなぁ……。

 目の前の宿題が嫌になってペンを投げ出すと、携帯ゲーム機が私から遠ざかっていった。

「あ〜待って待って! やるから〜」

 あのゲーム機には『ぴょこ足』がついている。

 本当は違う名前らしいけれど、お母さんがそう呼んでいるからぴょこ足。

 ぴょこ足がついているゲーム機は「宿題が終わったらゲームをやっていい」という約束を私が守るまで逃げ回る。

 ちゃんと宿題をやるとじわじわと近づいてきて、さっきみたいにサボるとぴゅーっと逃げてしまうのだ。

 ゲーム機に小さな足がついているのを怖がる子もいるらしく、足が見えない透明タイプもあるらしいけれど、私は面白いから足がついているのが見える方が好きだ。

 しぶしぶペンを持って宿題を始めると、ぴょこ足のついたゲーム機がじわじわ近づいてきた。

 そして宿題が終わる頃には、ゲーム機は私の手のひらに収まったのだった。

 ぴょこ足はこんな風にしてゲーム機についていることもあれば、駄菓子なんかについていることもある。

 お母さんは何かにつけ条件をつけたがるのだ。

 中学校に進学して、さすがにぴょこ足を使うことも少なくなったのだけれど、私はその使わなくなったぴょこ足をあることに使ってみることにした。

 こっそりと木村くんに近づき、その背中にぴょこ足をつけてみる。

 私は今、彼に絶賛片思い中なのだ。

 木村くんが私に近づいてくれる条件は分からないが、それはこれからの行動で木村くんが近づいてくれるか遠ざかっていくかで判断すればいい。

 が、私がぴょこ足をつけた次の瞬間、木村くんは猛烈な速さで私から遠ざかっていってしまった。

 そして卒業までの三年間、木村くんは一度も私のそばに近寄ってきてはくれなかったのである。

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