帰れないおじさん

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 僕の名前は小狸信史。私立探偵をしている。

 僕の住む町では最近、子供の行方不明事件が頻発していた。

 友人である古市刑事から聞いたところによると、その行方不明事件には「帰れないおじさん」という人物が関係しているらしい。

「帰れないおじさん」は中年の男で、帰れないおじさんに「帰れないよ」と声をかけられるとなぜか自分の家が分からなくなってしまうそうなのだ。

 そして家に帰れないで泣きべそをかいているところを探しに来た親に見つけてもらって、ようやく帰れるようになるそうだ。

 僕はその「帰れないおじさん」のことを探していた。

 古市刑事から人相や服装などの特徴を聞いた僕は、帰れないおじさんが子供に声をかけやすそうな場所を調査した。

 そしてその結果、古市刑事から聞いていた人相に合致する男を発見した。

 その男は、今まさに公園で遊んでいる男の子に声をかけようとしているところだった。

 僕は持ってきていた耳栓をつけてからおじさんと男の子の元へ走り、後ろから男の子の耳を塞いだ。

 おじさんの口が「帰れないよ」と動いたのを見て、僕はにやりと笑った。

 そして「おじさん、これを聴きな」とおじさんに向かって胸ポケットに仕込んでいたボイスレコーダーを差し向けた。

 このボイスレコーダーには先ほどのおじさんの「帰れないよ」という声が録音されている。

 僕は再生ボタンを押し、おじさんに自分自身の「帰れないよ」という声を聞かせた。

 不思議そうな顔をしている男の子に家に帰るように言ってから、僕はおじさんに言った。

「さぁ、これでおじさんが帰れなくなっちゃったね」

「あぁあ……俺は帰れない。帰れないんだ」

「こりたかい、おじさん。家に帰れなくなるってのは怖いことなんだ」

 僕はおじさんにそう言うと、ボイスレコーダーに録音された音声を少しだけ加工した。

 レコーダーをおじさんに向けながら再生ボタンを押す。

「帰れよ」

 その音声を聞いたおじさんはこちらに何度も頭を下げて大人しく家に帰っていった。

  
 事件を解決した僕は、今でもたまにこのボイスレコーダーの音声を使っている。

 面倒な勧誘に「帰れよ」という音声を聞かせると、すぐに帰ってくれるので重宝しているのだ。

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