寄り添い草

ショートショート作品
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 我が家に待望の子供が生まれ、私たち夫婦は習わしに則って草を植えた。

 これは「寄り添い草」と言って、子供と一緒に成長する長寿の草である。

 寄り添い草は縦に伸びる草で、子供の身長が伸びるとその分だけ草も伸びる、不思議な草だ。

 私たち夫婦の間に生まれた娘の成長と共にこの草は大きくなっていくのだ。

 
 娘はすくすくと成長し、それに伴って寄り添い草も大きく育っていった。

 ある日、小学生になった娘が「もっと大きくなりたーい」と言って寄り添い草に水やりをした。

「この草はあなたの成長に合わせて大きくなるんだよ」

と教えてやるが、娘は「でもこの草が大きくなったら私も大きくなれるかもだし」とせっせと世話をしていた。

 そのかいあってか分からないが、娘の身長は中学生になる頃には女の子にしては大きい170cmまで伸びた。

 すると娘は、今度は「こんなに大きいと目立って嫌だ。小さくなりたい」と言って、なんと寄り添い草をちょきんと切ってしまった。

「なんてことするの!」

 私は娘を叱りつけた。

「これは寄り添い草と言って、大事な草だって教えたでしょ? それをあなたは……」

 そう叱りながら、私はおかしな事に気がついた。

 娘の身長が……縮んでいる!?

 怒られて小さくなっているだけかと思ったが、そうではない。明らかに縮んでいる。

 もしかして娘は何十年かに一人現れるらしい「突然変異」なのかもしれない。

 寄り添い草が娘の成長に合わせるのではなく、娘が寄り添い草と一緒の身長になる、そんな体質。

 私は慌てて夫を呼んで、寄り添い草を覆う小屋を作ることにした。

 もし本当に娘が特異体質ならば、寄り添い草をこんな無防備に植えておくのは危険である。

 私の話を聞いた夫は「そりゃあ大変だ」と必要以上に慌てふためき、庭のバケツをぶちまけたり木材で窓ガラスを割りそうになったりした。

 そんなすったもんだを経て、なんとか寄り添い草を囲う小屋が完成した。

 これからはちゃんと見張っておかないと、なんて夫と言い合いながら私たちは疲れもあって泥のように眠った。

 翌朝。

 起きて庭に向かった私は思わず悲鳴をあげた。

 なんと、寄り添い草が昨日作った小屋を突き破り、家より高く成長しているのである。

 ど、どうして!?

 驚いた私は庭に転がるバケツを見てハッとした。

 そういえば、あのバケツには植物の液体肥料を入れていたのでは。そしてそれを夫がぶちまけて……。

 私は恐る恐る娘の部屋がある二階を見上げた。

 すると、昨日どうやら窓を開けたまま寝たらしい娘の足が窓から突き出て、お隣の佐々木さんの家の屋根にかかっていた。

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