僕の部屋の秘密

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 朝起きて洗面所に行くと、狸が丸まって寝ていた。

「おい、しゃんとしてくれ!」

 僕がそう言うと、狸が「あぁ、すんまへぇん」という感じでカミソリに戻った。

 まったくもう。

 僕はふぅとため息をついて髭を剃り始めた。

 僕が一人暮らしをしているこの部屋にあるものは、すべて動物が化けているものだ。

 そういう契約になっているのである。

 その代わり家賃が安い。

 化けている動物は、人間のせいで行き場を失った動物、例えばたぬき、キツネ、犬、猫、鳥、などなど。

 この部屋にある家具類はベッドを除いて全て動物による変装なのだ。

 僕の前では変装を解かない契約なのだが、たまにその変装が解けたりする。

 ベッドだけは寝ている途中に変装が解けると困るので、自分で買った。

 おかしな部屋ではあるが、家賃が安い所が気に入っている。

 人を呼べないのが難点だ。

 そう、呼べないはず、だったのだが……。

 ある日僕は失言をしてしまった。

 つき合っている彼女の前で「うちにいい壺があってさ、出かける前はなんとなく壺に向かってお祈りしているんだよね」と漏らしてしまったのである。

 その壺とはガマガエルが化けている壺で、見た目はすごく立派な壺なのである。

 彼女はその壺をどうしても見てみたい、と言った。

 やばい……どうしよう。

 こうなったら一度彼女を僕の部屋に招待するしかない。

 僕は家に帰って、家具のみんなに「頼むから明日だけは集中してくれ!」とお願いをした。

 翌日。

 彼女はやってきた。

 玄関に飾ってあるガマガエル……ではなく壺を見て、「わぁ、本当にいい壺だね〜」と喜ぶ。

「う、うん」

 気もそぞろで話を合わせていると、戸棚に化けている狐のしっぽが見えていてギョッとした。

「お、おい!」

 小声で注意すると狐はしっぽをしゅるりと消した。

「壺を見てもらえてよかったよ。じゃあ、そろそろ……」

 僕はそう言って彼女を帰そうとしたが、彼女は全然帰る気配がなかった。

「材料買ってきたから、晩ごはん作ってあげる!」

 彼女は張り切り、キッチンを使い始めた。

 僕は心の中で、あぁ、フライパンに化けているハクビシンがヘマをしませんように、と祈った。

 結局なんだかんだと話の流れで彼女は泊まっていくことになってしまった。

 こうなったらもうさっさと寝てしまうしかない、と僕は考え、彼女とちょこっとお酒を飲んでさっさと眠った。

 夜中。

 物音に目が覚めると、なんと家具に化けているみんなが元に戻っていた。

「お、おい、どうしたんだよみんな!」

 僕が慌ててそう声をかけると、いつもタンスになっている虎が「仕方ないですぜ、旦那」といった様子で窓の外を鼻先で示した。

 あっ……!

 そうか、今日は満月の日。

 満月の日はどうしても変装が解けてしまうので注意するように、と部屋の管理人から言われていたのだ。

 彼女が起きてしまわないといいが……と思い隣を見ると、彼女の姿がなかった。

 代わりに、大きな蛇がとぐろを巻いている。

 我が家に蛇なんていないはずだが……。

 すると、蛇が目を覚まし、チロッと舌を出した。

 そして蛇はするするとをベッドを降りて、壺に化けていたガマガエルをしゅるりと攫ってから、月夜の闇に消えていったのである。

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