終電に乗って帰っている時、私はとんでもないことを思い出した。
や、やばい!
明日は友達の結婚式なのだが、事前に美容院に行っておこうと思っていたのをすっかり忘れていたのだ。
明日は五時に起きてすぐに飛行機に乗り込まなくてはならない。
どうしよう……。
夜中にやっている美容院なんてないよね。
家の最寄り駅について、私は家に帰りながらうろうろと美容院を探した。
すると、なんと奇跡的に開いている美容院を発見したのである。
あ、あった!
だけど、こんなところに美容院なんてあったっけ。
とりあえず私は中に入ってみることにした。
扉を開けると、中にいた男性の美容師さんが声をかけてきた。
「ご予約のお客様ですか?」
「あ、いえ……そうじゃないんですけど」
「承知しました。そちらでお待ち下さい」
美容師さんは、私を待合室の椅子に案内した。
どう見ても私の他にお客さんはいなかったが、一旦ここで待つらしい。
それから十分ほど待たされ、私は少しイライラしてしまった。
いやいや、ダメダメ。この時間にやってもらえるだけでありがたいんだから。
やがて美容師さんに呼ばれた私は鏡の前の椅子に座った。
「今日はどうなさいますか?」
美容師さんにそう聞かれて、私は求めるヘアスタイルについて話した。
美容師さんはテキパキと私の髪を切ってくれて、そして出来上がったヘアスタイルは、まさに私が求めているものだった。
最初は、この美容院大丈夫かなぁなんて思ったけれど、大満足である。
お会計をしながら、美容師さんに「でも、夜中にやっている美容院なんて珍しいですね」と話しかける。
すると、美容師さんが言った。
「えぇ、というより夜中しかできないんです」
どういうことだろう、と美容師さんを見ると、ニコっと笑った美容師さんの歯に、牙が生えているのが見えた。
そういうことだったのか……!
店から出る扉を開けると、店の中から「ありがとうございましたー」と何人かの声が聞こえた。
店の中には美容師さん一人しかいなかったはずなのだが……。
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