マンション近くの道を、主婦らしき女二人が歩いている。
二人は周りに聞こえていることなどお構いなしという様子で話をしていた。
「ねぇ、山下さんちのシャワーヘッドのこと聞いたぁ!?」
「え、なぁに、それ?」
「山下さんちのシャワーヘッドが壊れちゃったらしんだけど、これが傑作なのよぉ」
「なになに?」
「シャワーヘッドからね、急に勢いよくお湯が出て、バタバタ暴れ出したんですって」
「やっだー!」
「それでね、山下さんは慌ててお湯を止めたらしいんだけど、お湯を止めてもシャワーヘッドが暴れたらしいのよ! まるで蛇みたいにね。それで、山下さんどうしたと思う?」
「え〜分かんない」
「笛を吹いたんですって」
「笛ぇ?」
「ほら、インドとかにコブラを操る人いるじゃない! 笛吹いて、壺とかから蛇出す人。あの要領で笛を吹いたらシャワーヘッドがおとなしくなったらしいわよ」
「冗談でしょ!?」
「それがホントなのよ〜」
「でもそれじゃ、お風呂に入れないじゃない」
「そこよ。だからね、山下さん、お風呂に入る時、いつもお風呂の外で旦那さんに笛を吹いてもらってるんですって!」
「嘘ぉ!? ギャハハハ! 私だったらそんなの根元からちょんぎって買い替えちゃう」
「私もそうするわよぉ。でもね、山下さんそうしないのよ。なんでだと思う? 理由を聞いたらね……可哀想だからって」
「やっだー!」
二人の笑い声がマンションの敷地内に響き渡る。
「でもね、ついにそのシャワーヘッドが壊れちゃったらしいのよ。いくら笛でおとなしくするって言っても、笛が止めば途端に暴れ回るもんだからブチッて切れちゃって、窓から逃げ出したんだって。それで結局新しいシャワーヘッドに買い替えたらしいんだけど、そうしたら暴れない普通のシャワーヘッドになったんだって」
「へぇえ〜」
「あ、降って来たわね」
「あらほんと」
「え……なにこの雨、熱くない?」
「え、嘘、ほんとだ」
「キャーーー!!!」
騒ぎながら逃げるようにマンションの中に入った主婦二人。
彼女たちが行った後、屋上から身を乗り出していたシャワーヘッドはニョロニョロとマンションの屋上にある給水塔に戻った。
しかし途中で思い立ったように逆戻りをして、話をしていた主婦二人の部屋のベランダに干してあった洗濯物にジャーっと水をかけると、今度こそ給水塔に戻って行き、その姿は見えなくなった。
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