サークルの仲間四人で、山に登ることになった。
僕と菜々ちゃん、それから涼太と百花ちゃんで山に向かう。
僕は今回の登山に先駆けて「濃い霧効果体験ツアー」というものをお願いしておいた。
人間には「吊橋効果」というものがある。
古い吊橋なんかを男女が一緒に渡ると、恐怖によるドキドキを恋のドキドキと勘違いする、という例のやつだ。
濃い霧効果体験ツアーはその霧バージョンである。
登山中に霧を出してもらい、そのドキドキで距離を縮めようというのだ。
僕はこの機会に菜々ちゃんと仲良くなりたいと思っていたのである。
霧が発生しても、ちゃんと脱出するために山小屋の位置を完璧に把握しておく。
完璧だ。
僕たち四人はみんなで山を登り始めた。
そして一時間ほどしたところで霧が出てきた。
よし、いいぞ。
「落ち着いて。大丈……」
待て。霧が濃すぎる。
事前にツアーの業者さんに見せてもらったものよりも何倍も濃い霧があたりにたちこめる。
一瞬で誰も見えなくなった。
「おーい、菜々ちゃぁん!」
僕は声の限りに叫んだ。
遠くからかすかに返事のようなものが聞こえる。
だが、どこにいるのか分からない。
僕たちはそのまま遭難し、やがて四人とも救助隊に救助されることになった。
なぜそんなことが起こったのか。
真相は意外なものだった。
なんと、四人が四人とも、別の業者に濃い霧効果体験ツアーを申し込んでいたらしい。
その結果、あんなに濃い霧になってしまったのだ。
結局、あれからすぐにメンバーの一人である百花ちゃんに彼氏ができてしまったり、僕は僕でバイトで知り合った人が好きになってしまったりして、もうあの四人で遊びに行くことはなかった。
しかし、四人が四人とも濃い霧効果体験ツアーに申し込んでいたとしたら、菜々ちゃんは僕と涼太、どっちと仲良くなりたかったのか。
そして他の二人は……?
まぁそんなことを考えてみても、今となっては霧もやの中で、はっきりしないのではあるが。
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