過去電話

ショートショート作品
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 過去に電話ができる電話があると聞いて、僕はある廃屋にやってきた。

 その電話は夜じゃないとつながらないらしいので、夜に来たのだが、正直かなり不気味である。

 それでも僕はやってきた。

 過去に電話ができる電話が、必ずどこかにあると信じていたからである。

 なぜなら、僕は未来の僕らしき人物から電話を受けたことがあるからだ。

 どんなことを話したのかは全然覚えていないが、あれは夢なんかじゃない。

「あった……」

 廃墟に一台の黒電話があった。

 実家の番号に電話をかけてみる。

 この黒電話は電話線が切れているので、普通に考えればつながらない。

 だが……。

「もしもし?」

 子供が電話に出た。

 きっと、小さい頃の僕だろう。

 まさか、本当につながるとは。

 不意打ちを食らったような気持ちになって、何を言えばいいのか、何を言われたのかを思い出せないまま、僕は言った。

「お父さんとお母さんを大事にしろよ」

 それで電話は切れた。

 そうか、未来の僕はそんなことを言っていたのか。

 これで長年の疑問が解けた、と思いながら帰ろうとした時、黒電話が鳴った。

 飛び上がりそうになりながら、電話の方を振り返る。

 おそるおそる受話器を上げた。

「やっぱりいたか。すぐに逃げろ!」

「え?」

「いいから電話を切って逃げるんだ!」

 電話から聞こえてきたのは、僕の声だった。

 それきり電話からは何も聞こえてこなかった。

 受話器を置いた瞬間、背後にこの世のものではない何者かの気配を感じ、僕は走って廃墟を脱出した。

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