秘境の歯磨き

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 ある山に、岩の間から歯磨き粉が出るという世にも珍しい観光スポットがあった。

 岩から出る歯磨きで歯を磨くとピカピカになるらしいのだ。

 連日人が押しかけ、容器に歯磨き粉を入れていくのだった。

 たまにマナーの悪い客がいて、その場で歯を磨こうとするのだが、そういった行為は禁止されていた。

 観光客の数が落ち着いた夕方過ぎ、山に住む刀鍛冶が岩にやってきた。

 彼もまた歯磨き粉の調達にやってきたのだ。

 この岩の間から出る歯磨き粉の本来の使い方を知っているのはこの男だけである。

 昔、この歯磨き粉は刀を磨くのに使われた。

 当時は”刃磨き”と呼ばれ、この粉で磨くとよく切れる刀ができると評判だったのである。

 それが今や歯磨き粉と使われているとは、それだけ平和になったということだ。

 男は平和な世について喜ばしさを感じながら、岩の間から湧き出る歯磨き粉を持ち帰り、歯を磨いた。

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