彼と一緒にあるレストランに入った。
そのレストランは評判の高いレストランで、とにかく料理が美味しいという。
実際に食べてみると、なるほど、確かに美味しい。
でも……何か違和感がある。
違和感の正体に気がついたのは、私が一度お手洗いに立って、戻ってきた時だった。
食事を続けようと思った時、店員さんがすっと近寄ってきて、紙エプロンをつけてくれたのだ。
それだけならただサービスがいいだけなのだ、と思うのだけれど、なんとなくその店員さんが焦っているように見えたのだ。
そしてよくよく観察してみると、途中でお手洗いに立ったり、離席した人が戻ってくると、店員さんがすぐにやってきて、エプロンをつける。
その速さが異常なのだ。
もしや、このエプロンに何かある……?
そんなことを考えているうちに、食事は終わった。
それからしばらく経っても、私はあのレストランとエプロンのことが忘れられなかった。
あのエプロンには仕掛けがある。
例えば、エプロンをすると必ずどんな料理でも美味しくなる、というような……。
一度気になったら、追求しないと気が済まないのが私である。
私はあのレストランに潜入してみることにした。
アルバイトの募集に応募し、見事採用されたのである。
出勤初日、同じく今日から勤務開始の人たちと一緒に、説明を受けた。
フロアのチーフだというその人は、開口一番にこう言った。
「あなた達の仕事は、お客様にこのエプロンをつけることです。このお店の料理が美味しい秘密はこのエプロンにあります。このエプロンがお客様の味覚を刺激し、どんな料理も極上の味へと変えるのです」
驚いた……。
こんなに早く秘密を知ることができるなんて。
秘密を知ってしまったらもうここにいる意味はない。
折を見て辞めてしまおうと思っていた私に、チーフはこんなことを言った。
「あなた達は今はただのアルバイトですが、これから社員を目指していただきます。途中で辞めることは許されていません」
……え?
何を言っているんだろう、この人。
「あなた達はこの店とエプロンの秘密を知りました。この秘密を外部に漏らさない為に、あなた達には一生このレストランで働いてもらいます。先ほども言いましたが、辞めることは許されません。逃げることもです。皆さんには常に監視がついています。馬鹿なことは考えないことです。逃げようとする者、辞めようとする者の処理のためにも、このエプロンが有効であることをお忘れなく……」
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