私は米農家である。
しかし私が作っているお米は食用ではない。
ライスシャワー用のお米なのである。
私の作っている「虹米」でライスシャワーをすると虹が出るので、結婚式場から注文が絶えない。
娘は「もっと販路を拡大すればいいのに」なんて言うけれど、これでいいのだ。
今年は記録的冷夏で、普通の米はあまり採れなかったらしいが、虹米は大丈夫だった。
娘が、これ幸いにと食用の流通ルートに虹米を卸すと言い始めた。
米が食べたいという消費者の強い要望を受け、私は仕方なく虹米を食用に卸した。
しかし、一つ懸念があった。
虹米は、味としてはそこまで美味しくないというのもあるが、もう一つ懸念があるのだ。
しばらくして、やはり大人の口には合わなかったらしい、ということが分かった。
なにしろ、虹米は炊くと虹色の米が炊き上がるのだ。
米はやはり白でないと……と敬遠する人が多いらしい。
しかし、思わぬところで虹米はヒットした。
ご飯を食べるのを嫌がる子供が、虹米だと喜んで食べるらしいのだ。
おかげで、販路が急速に広がり、田んぼも増やすことができた。
娘は鼻高々である。
米不足が落ち着くと、私はだんだん食用への流通を減らした。
虹米に慣れたら、他の美味しいお米を食べなくなるかもしれないからだ。
日本には、たくさん美味しいお米があるから、食べるなら美味しいものを食べて欲しい。
娘は不服そうだが、これでいいのだ。
虹米は本来の使い方をしてこそ耀く。
私は新米の虹米を手に握った。
虹米の作った虹の下で、娘の笑顔が弾けている。
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