神オムツ

ショートショート作品
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  私にはある不思議な記憶がある。

 それはまだ私が赤ちゃんだった頃の記憶だ。

 その頃の私はまだオムツを履いていて、ハイハイもできなかった。

 普通、そんな頃の記憶を覚えているわけがない。

 しかし私はなぜかそれを覚えている。

 その日、私はお母さんにオムツを替えてもらっていた。

 お母さんは「きれいきれいしましょうね〜」と笑いながら私のオムツを替えてくれた。

 新しいオムツは気持ちがよくて、私はキャッキャとはしゃいだ。

 その時だ。

 私の体がフワッと浮いた。

 天井に届きそうなくらいに浮かんだ私の体は、部屋の窓から外に飛び出した。

 そしてそのまま、青い空に吸い込まれるように浮かんで行った。

 家を越え、ふわーっと浮かび続けた私は、いつしか雲の上にあるどこかにたどり着いた。

 そんな私を、白い髭を蓄えたおじいさんがキャッチした。

 あまり良く見えなかったけれど、なんとなく白い服を着ていて、今思うとあれは神様だったのだろうな、と思う。

 神様ともう一人、黒いフワフワの髪の毛をした付き人のような人がいて、その二人が私を見て言った。

「ほっほっほっ。可愛い子だ」

「ですねぇ」

「ふむ、あまり変わりはないようだな」

「生物はそんなに早く進化しませんよ」

「それもそうだなぁ」

 そう言って神様が私をゆすったので、私はくすぐったくって笑った。

「ほほほ。笑いおった」

「笑ってますねぇ」

「よーし、良い子だから君には特別なものをあげよう」

「いいのですか?」

「あぁ」

 神様はそう言うと、私のおでこに手を当てた。

「これでよし。さて、じゃあそろそろ返してあげよう」

 そう言うと神様は私をふわりと雲から落とした。

「記憶をちゃんと消しておくようにな」と、神様が付き人の人に言うのが聞こえた。

 それから私はフワフワと雲の中を通って、家に戻った。

 出ていった窓から入ってベッドの上に着地したのは覚えているのだが、その後のことは全然覚えていない。

 神様は付き人の人に記憶を消すように言っていたみたいだけど、私はその不思議な出来事をちゃんと覚えていた。

 付き人の人は私の記憶を消すのを忘れたのかもしれない。

 その証拠に、私がこの記憶のことをお母さんに話した時、お母さんは「なぁに、それ?」と笑った。

 お母さんは空に浮かんでいく私を見ている。

 なのにそのことを覚えていないということは、あの付き人の人が記憶を消したのだろう。

 私はこの記憶のことをお母さん以外にも何人かに話してみたことがある。

 しかし、みんな笑うだけで信じなかった。

 まぁ、無理もない。

 
 さて、この記憶のことで一つ気になるのは、神様が言った「君には特別なものをあげよう」という言葉である。

 それが一体なんだったのか。

 いまだに分からない。

 何か、私には人にない才能が備わっているのかもしれないけれど、今のところそれが何かは分かっていない。

 そんなことを考えていた私は、ふいにある閃きを得て「あ!」と叫んだ。

 そうか。そういうことだったのだ。

 神様が私にくれたもの。

 それは人にない才能などではない。

 神様がくれたのは、私が空を浮かんで神様に会いに行ったという”記憶そのもの”なのではないか。

 神様は付き人の人に「記憶を消しておくように」と言ったけど、私はちゃんと覚えている。

 神様が消すように言ったのはお母さんの記憶のことで、 付き人の人は私の記憶を消すのを忘れたわけではなかったのではないか。

 だとしたら、神様は本当にいいものをくれた。

 だって、私は赤ちゃんの頃に神様に会ったこの記憶を持っていることで、こんな風に考えることができる。

 神様はいる。だとしたら、天国だってきっとある。それに多分、宇宙人だっているはずだ。ちょっと怖いけど幽霊も。

 そう。

 私たち人間にはまだ知らないことや分からないことがたくさんあるのだ、と。

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