伝統の怪談

ショートショート作品
スポンサーリンク

 我が家に代々伝わる伝統の怪談がある。

 鏡の女の怪談だ。

 丸い形の鏡が飾られている、ある屋敷の話。

 その丸い鏡には夜な夜な女の姿が映る。

 その女は、屋敷の主人に殺された女なのである。

 女は主人に思い出してもらいたくて、一生鏡の中から主人のことを見つめ続けたという。

 と、お母さんから聞いたそんな話を私は娘にしてみたのだが、娘に「全然怖くなぁ〜い」と言われてしまった。

 それはそうだろう。

 こんな感じの怪談が誕生してから、もう長い時間が過ぎた。

 今では幽霊は仮想の存在ではなく、実際に”見える”存在になっている。

 私たちが子供の頃はそんなこと信じられなかったのだが、人類の進化により、この世をウロウロしている幽霊が実際に見えるようになったのだ。

 お盆なんかも実際に幽霊がやってくるので、先ほどの鏡に映る女の話などは特に怖くもない。

 幽霊だって鏡にくらい映るんじゃない? といった調子である。

 娘は生まれた時から幽霊が見える、いわゆる”幽霊ネイティブ”だから、幽霊が鏡に映って見えるなんて話では怖がらないのだ。

「じゃあさ、鏡に何が見えたら怖い?」

 私がそう聞くと、娘は真剣な表情でこう答えた。

「ん〜、寝起きのママ!」

コメント

タイトルとURLをコピーしました