心配性な目覚まし時計

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 彼氏からプレゼントで目覚まし時計をもらった。

 プレゼントに目覚まし時計なんて味気ないと普通は思うだろうけど、私たちの場合はちゃんと理由がある。

 理由その一。私の遅刻癖。

 私は昔から時間にルーズで、学校の始業時間はもとより、様々な時間に遅れ続けている。

 理由その二。時間に正確すぎる彼。

 私はしょっちゅう彼との約束に遅れていくけれど、彼はいつも時間通りにいる。

 彼曰く「いつも十分前にはいる」らしい。

「僕は別に待たされてもいいけど、他の人が可哀想だから」

 彼はそう言って私に目覚まし時計をくれたのだ。

 なんでも、私がちゃんと時間通りに起きれるようにちょっとした改造を施してあるらしい。

 改造ってなんだろうなぁと気楽に構えていたのだけれど、それはとんでもない改造だった。

 目覚まし時計が鳴るように設定した十分前から定期的に彼の声が聞こえてくるのだ。

 十分前になると「ねぇ、よっちゃん起きなくて大丈夫?」。

 五分前には「そろそろ起きないと!」。

 三分前「起きてーー!」。

 一分前「もう起きないと本当にやばいよ!」。

 こんな調子である。

 正直鬱陶しいことこの上ないが、彼なりに考えた結果の改造だろうと思うと微笑ましく、ありがたくもある。

 ただ、そうなると私が設定したその時間には何と言うのか、俄然気になってくる。

 私は目覚まし時計のスイッチをそのままにして、待った。

 そして時間になった。

 だが……何も鳴らない。

「えぇ、設定した時間に何も鳴らないの!?」

 それじゃ目覚まし時計として失格なのではと思いながら、私は目覚まし時計のスイッチを切ろうとした。

 その瞬間。

 目覚まし時計から彼の小さい声が聞こえてきた。

「……よっちゃん……嫌い」

 それを聞いた瞬間、私は急いで目覚まし時計のスイッチを切った。

 彼のくれたそんな厄介な目覚まし時計は……悔しいけれど効果絶大だった。

 最初に聞いたあのセリフを二度と聞きたくない私は、目覚まし時計をセットした時間より前に起きられるようになった。

 大体三分前の「起きてーー!」で目を覚ます。

 起床予定時間の三分前に起きるなんて、前の私では考えられない快挙だ。

 彼はデートの時間に遅れなくなった私を見て満足そうに笑っていた。

 そんな彼との付き合いも長くなったけど、私はまだあの目覚まし時計を持っている。

 今日も例の声が聞こえてきた。

「ねぇ、よっちゃん起きなくて大丈夫?」

 私はまだ目を開けない。

「そろそろ起きないと!」

 起きない。

「起きてーー!」

 起きない。

「もう起きないと本当にやばいよ!」

 起きない。

 そして……三十秒後、いつものセリフが聞こえてきた。

「……よっちゃん……よっちゃん!」

 彼が私の肩を掴んで揺さぶった。

 そこでようやく私は目を開ける。

「もう、僕、先に行くからね! よっちゃんも早くしないと遅刻するよ!」

そう言ってわたわた焦るスーツ姿の彼が可愛くて、最近の私はわざと寝過ごしているのだった。

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