てるてるほうす

ショートショート作品
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「明日は広い地域で雨となるでしょう」

 そんな天気予報を聞いて私は彼にメッセージを送った。

 明日は彼とキャンプに行く約束をしているのだ。

『明日、天気心配だね』

『そうだね。てるてるほうすを吊るしておくよ』

 今どきてるてる坊主なんて可愛いなと思い私は笑った。

 翌朝起きると、やはり雨が降っていた。

 それもかなり強い雨で、向かう先のキャンプ場もどうやら雨が降っているようだ。

 私はスマホを手にとり彼に連絡した。

『ちょっと今日は厳しいかもね』

『てるてるほうすを吊るしたから大丈夫だよ! 行こう!』

 私は彼からのメッセージにとまどいつつ、とりあえず出かけることにした。

 キャンプ場につくと、やはり雨が降っていた。

「あちゃちゃ。やっぱりダメそうだねぇ」

 私は彼にそう言ったのだが、彼は何やら黙々と作業をしている。

 キャンプ場の柱にホースのようなものを巻きつけているようだ。

「よし、これでいいかな。見てて」

 彼がそう言ってホースをひねると、その先から日光のような光が溢れた。

 ホースの日光が当たっている場所は雨が弾かれていく。

「こうするともっといいかな」

 彼はそう言ってホースの先をクリップのようなもので挟んだ。

 するとホースの先から出ている日光が薄く広がった。

 その様子はまるで私たちのいる場所だけが日光の膜に覆われたようだった。

「す、すごいね! なんなの、これ」

「これは”てるてるほうす”と言って、この網の目模様の部分がソーラーパネルになっていて日光を吸収するんだ」

 彼の指差した先を見ると、確かにホースには網の目模様があって、そこが虹色に光っている。

「そして貯めた日光をこうして放出できるんだよ。昨日のうちにたっぷり日光を吸収させておいたから、今日一日持つよ」

「すごい、便利だね、これ!」

「あとで売っているところを教えてあげるよ。さ、準備しよう」

 彼とのキャンプから帰ってきた私はさっそく彼に教えてもらったてるてるほうすを自分でも買ってみた。

 これさえあれば、彼との共通の趣味であるアウトドアを、天気を気にせず楽しめる。

 私は出かける前の日は必ずてるてるほうすをベランダに吊るし、日光を蓄えた。

 そして今日、私は彼と釣りに来ていた。

 釣り場は雨が降っていたのだけれど、私はそんな日に限っててるてるほうすを家に忘れてきてしまった。

 家を出る時、近所が晴れていたのですっかり油断してしまったのだ。

「僕が持ってきてるから安心して」

 彼がそう言っててるてるほうすから日光を差してくれた。

 彼と一緒に釣りを楽しんでいると、弟から何やら動画が送られてきた。

 なんだろう、と思いながら開いてみると、動画には母が映っていた。

「ちょっと、どうなってるのこれぇ!!!」

 そう叫びながらお母さんがホースを振り回している。撮影者の弟はその様子を撮りながら爆笑していた。

 私も思わず笑いながら彼に動画を見せた。

 彼が釣り竿を握りながらお腹を抱える。

 お母さんはどうやらそれを普通のホースだと勘違いしたらしい。

 ホースの先から水と一緒に日光が放出され、四方八方に綺麗な虹が……。

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