影の口

ショートショート作品
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「おまえ、俺のことうざいって思ってるだろ!」

 突然、クラスメイトのりょーくんが怒った。

 まただ。

 昨日の中休みから、僕の影が変なのだ。

 僕の影は他の誰かの影と重なると、なんとしゃべりだすらしい。

 しゃべると言っても、僕には何も聞こえないのだが、僕の影が相手の影に何かを伝えるようだ。

 しかもその内容は、僕が密かに思っていることだったりする。

 だから昨日もそれで友達と喧嘩をしてしまった。

 まったくいい迷惑である。

 影がおかしくなってから、僕は影が他の誰かの影と重ならないように気をつけていた。

 そんな影だけど、いいところもある。

 僕には片思いの女の子がいるのだけれど、まだ好きって言えていない。

 だから僕はこっそりと女の子に近づいて、影を重ねることにした。

 そうすれば影が勝手に想いを伝えてくれると思ったからだ。

 校庭の鉄棒で遊んでいた女の子の影に僕は自分の影を重ねた。

 どんな返事が来るのかなぁとドキドキして待ったけれど、女の子は何も言わなかった。

 僕は小声で影に言った。

「おい、ちゃんと言ったのか!?」

 返事はない。

 僕の影はあの子の影に好きって言わなかったのだろうか。

 そんな風にもんもんとしていると、突然女の子の声が聞こえた。

「君、そういうことはちゃんと自分の口から伝えるものよ」

 え!?

 僕は女の子の方を見た。

 しかし女の子は他のクラスメイトと楽しそうに話している。

 だとしたら、今の声は……。

 その場を離れる女の子の影を見る。

 すると、影が僕にだけ分かるようにウインクをしたように見えた。

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